通学の路線バス、運転手足りず今月で廃止 「高校選んだ決め手」が…

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河原田慎一 鈴木智之
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A-stories 8がけ社会 通学異変㊤

 午前6時35分。夜明け前の暗闇をついて、乗客が誰も乗っていない丹後海陸交通バス(丹海バス)が、ゆっくりと与謝野駅(京都府与謝野町)前に入って来た。

 「天橋立ケーブル下」発「共栄高校前」行き。バスは、かつて丹後ちりめんで栄えた古い町並みを走る。乗客の大半は高校生。終点にある福知山市の京都共栄学園高校などに通う生徒だ。

 途中のバス停で1人、また1人と乗ってくる。ゆるい坂を上り切った「与謝」バス停までに、1月末のこの日は9人が乗車。乗客は無言で、いつもの「指定席」に座る。

 ここから、与謝峠のトンネルを抜けて福知山市まで行くバスは、朝夕の1本ずつだけだ。

 「峠を越えるだけのためにチェーンを巻かんといかんこともある。でも、乗る人は片手もいればいいぐらい」

 そう言って、運転手がバスを峠に向け右折させた。上り坂が急になり、雪はだんだん激しくなる。結局、峠を越えた先から乗った人は2人だけ。与謝野駅を発車してから約1時間25分後、バスは京都共栄学園高校に到着した。

 同高2年の小林達樹さんは、3歳上の姉と同じようにこのバスで通学している。「駅までの送迎もいらないし、乗り換えがなくてめちゃくちゃ良かった。高校を選ぶときの決め手になりました」

 この路線は、2019年には平日に1日5往復から3往復に減り、昨年6月には朝夕の2往復になった。

 そして、この路線は3月末で廃止される。

 福知山市にある学校に通う生徒は、いったん正反対の方向にある与謝野駅に向かい、京都丹後鉄道に乗って途中の宮津駅で乗り換える、大回りをしなければならなくなる。朝、通学にかかる時間は30分ほど長くなりそうだ。

 「生徒募集にとっても大打撃だ」。京都共栄学園高の柿原功二教頭は、そうつぶやいた。同高は、京都府北部で数少ない私立校の一つ。進学コースに通う今井心美さん(1年)の母裕子さんは、自分の出勤時間が早く車で送れないときに、バスで通ってもらっている。

 「乗っている人がすくないので仕方ない面もあるけど、学校の前まで行ってくれる安心感があった。もし入学当初からバスがなかったら、通学させるか考えていたかも」

 実は、丹海バスがこの路線を廃止したのは、赤字よりも運転手を充てられないことが理由だという。運転手の数は昨年末時点で59人。10年前から2割減り、過半数が55歳以上だ。

連載「8がけ社会」

運転手が足りず路線バスの撤退が各地で相次いでいます。記事の後半では、150万人の人口を抱える大都市郊で、小学生が通学に使う路線バスがなくなる事例を紹介します。2040年には現役世代が20年の8割になる「8がけ社会」になり、都市部でも通学への影響が広がるかもしれません。

 丹後半島内の幹線道路を中心…

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この記事を書いた人
鈴木智之
科学みらい部|大阪駐在
専門・関心分野
科学、交通、難病