岡本太郎賞の25歳 4年間海岸を歩いた「とてつもない執念」
【神奈川】新しい芸術の可能性をひらこうとする作家に贈る「第28回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)」の岡本太郎賞(最高賞)は、千葉県船橋市の仲村浩一さん(25)の作品に決まった。579点から選ばれた入選者24人の作品が、川崎市岡本太郎美術館(多摩区)で展示されている。
仲村さんの受賞作は、二つの作品をセットにした「房総半島勝景奇覧/千葉海岸線砂旅行」。武蔵野美術大の卒業制作として手がけた。
「千葉海岸線砂旅行」は、砂のついたセロハンテープを貼った画用紙を160枚並べた。さまざまな色の砂がグラデーションを描く。
「海岸によって砂の色が変わる」と聞いたのをきっかけに、およそ4年をかけて故郷・千葉の海岸線を歩いて一周した。10歩間隔で足元の砂をセロハンテープで採取していったという。
この過程で見た千葉の景色や土産物、印象に残った物などをアクリル絵の具で描いたのが「房総半島勝景奇覧」。採取した砂も取り入れた。
2月22日に同美術館で授賞式があり、審査員の山下裕二・明治学院大教授は「海岸線を4年間も歩き続けたというとてつもない執念と、時間がかかっている作品。絵は千葉に対する愛があふれ出している」と評した。
仲村さんは現在、東京芸術大大学院の1年生。絵の具と砂を併用して絵を描く技法を研究している。「太郎賞を受賞するとは思ってもみなかった。今回のテーマは千葉県の旅だったが、それを発展させた別の旅を始めている。賞金はその資金にさせてもらいます」と話した。
次席の岡本敏子賞を受けた北海道旭川市の斎藤玄輔さん(50)の作品は「語り合う相手としての自然」。版画の手法を用いて、東日本大震災前の東京電力福島第一原発の建屋を模した立体作品だ。避難指示解除直後の2020年に福島県双葉町などで採取した植物の押し花から版をつくり、青色カーボン紙に転写。設置面の内側からLEDライトを照射すると、植物の像が白く浮き上がる。斎藤さんは東北芸術工科大大学院を修了しており、当時の友人の多くが被災したという。「震災が起きたときはすでに東北から離れていた。被災していない自分が、あの地を題材にした作品をつくってよいのかという思いもあったが、この機会を与えていただき、ようやく取り組むことができた」と語った。
特別賞には神奈川県大和市の井下紗希さん(27)の絵画「森を歩くこと。」が選ばれた。
入選作品を展示する岡本太郎現代芸術賞展は4月13日まで。休館日は月曜日(3月24日、31日、4月7日を除く)、3月11日、12日、21日。このほか臨時休館もある。観覧料は一般700円、高校生・大学生と65歳以上は500円、中学生以下は無料。問い合わせは同美術館(044・900・9898)。