空港機能強化で移転の地域、歴史継ぐには 多古、芝山両町で取り組み
2029年3月を目標とする成田空港(同県成田市)の機能強化で、千葉県多古町と芝山町の一部が新たな空港用地となる。移転が迫る中、地域の歴史をどう継承していくかが課題になっている。
機能強化は滑走路新増設が柱で、その用地として多古町一鍬田(ひとくわた)の約60世帯、芝山町菱田、大里の約130世帯が移転を迫られる。これとは別に、騒音対策として、成田、多古、芝山、横芝光の4市町で計1078世帯の移転対象区域が新たに生まれた。
多古町教育委員会は15日、「歴史資料を後世に残す~大規模開発のなかで~」と題した歴史講座を町内で開催した。町民らと研究者が、歴史の継承について語り合った。
成田国際空港会社(NAA)や、周辺9市町の展望・課題を様々な立場で話し合う「成田空港地域共生・共栄会議」も近年、記録映像の作成などを進めている。町教委はこれに加え、自治体として取り組むべきことを検討するため、定期開催している歴史講座で、空港の機能強化を初めて取りあげた。
講師を務めたのは、千葉経済大地域経済博物館学芸員の菅谷祐輔さん(31)と、長野大教授の相川陽一さん(47)。ともに、移転対象地域の調査・保全活動のために研究者が昨年設立した「北総地域資料・文化財保全ネットワーク(北総ネット)」の共同世話人だ。
菅谷さんは、多古町史がつくられる際に使われた歴史資料をもとに講演。空港用地に含まれた一鍬田、移転対象地域に含まれた牛尾(うしのお)、船越、水戸、千田(ちだ)、林、五反田、喜多の歴史を詳しく紹介した。「集落の移転で、資料や行事が分からなくなってしまうことが予測される。現在のような転換点にこそ、記録に残すことが重要」と話した。
相川さんは、北総ネットが芝山町で空港用地に含まれた菱田、大里の集会場などにある資料の調査と目録化を進めていることを紹介。「研究者よりも地域に詳しい皆さまの協力が欠かせない。機能強化に伴う記録・記憶を未来に伝えていくため、埋蔵文化財調査のような公的な仕組みが必要ではないか」と指摘した。
聴衆との質疑応答もあり、多古町船越の鈴木成洋さん(79)が会場から「地域にある神社の氏子の90%が移転対象。他の神社と統合されるのではないかと心配だ」と訴えかけると、菅谷さんと相川さんは「証言」にメモをとり続けた。
講座終了後、鈴木さんは朝日新聞の取材に応じた。
町内で生まれ育ち、高校卒業後は東京で40年以上働いたものの、船越出身の妻と「第二の人生」の地として、約15年前に戻った。だが空港機能強化が浮上し、自身も今秋に代替地に移転を考えている。
質疑で言及した神社の氏子は十数世帯で、一部は残るが、大半は鈴木さんと同様に町内の代替地に移転する。「移転の相談など、町もよくやってくれているが、集落消滅の危機を感じている」と話した。
町教委は、今後も機能強化に伴う歴史継承の取り組みを続けていくとしている。
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空港用地として移転を迫られる芝山町大里の加茂地区では23日、文書や民具といった地域の資料を集めて目録などで保存する調査・保全活動があった。
町教育委員会と「北総ネット」、しばやま郷土史研究会による共同調査で、昨年9月には同町菱田(中郷、中谷津、菱田東の各地区)で実施。今回は23日までの2日間で、残った大里(加茂地区)で行われ、祭りの衣装や帳簿などが集まった。
地区には空港開港前は60を超える世帯があったが、現在は30世帯足らず。その半数程度が町内の代替地に集まって移転予定という。その1人の萩原広さん(75)は「代替地には別の地区からも人が来る。伝承は続けられないだろう。こうした形で残してもらえてありがたい」と話した。
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