第4回ネットカジノ施設で見た人身売買の実態 中国スパイ疑惑に揺れた町で
「市長は中国のスパイ」――。2024年、フィリピンの地方都市でこんな疑惑が持ち上がった。
渦中の人は、北部タルラク州バンバン市のアリス・グオ前市長。中国企業が運営するオンラインカジノ施設で3月、700人規模の人身売買が明るみに出て、捜査の過程で、グオ氏が運営に関与した疑いが浮上した。
同種の施設は「POGO(フィリピン・オフショア・ゲーミング・オペレーター)」と呼ばれる。ドゥテルテ前政権が16年から推進し、経済成長の「特効薬」となるはずだった。
POGOで何が起きていたのか。記者は昨年11月、摘発を受けて閉鎖されたバンバン市の施設を訪ねた。
まるで日本の団地のような建物群が、市役所のすぐ裏の田園地帯に立ち並んでいた。運営会社の名を冠して「バオフーランド」と呼ばれ、広さは東京ドーム2個分の約10ヘクタールにもなる。
警察から特別に許可を得て、人気のない敷地に入った。
自力での脱出は不可能、そう感じた
門を抜けると、32棟もの建物が整然と並んでいた。オフィス、食堂、寮、売店、ランドリー、バスケットコート……。生活に必要なものがすべてそろう、一つの町のようだ。
記者は、このPOGOから救出された男性の1人に取材しました。人身売買に巻き込まれ、詐欺に加担させられた当事者の証言を、記事後半で紹介します。
至る所に中国語の標識や貼り…