難聴の子が得られた利益「健常者と同額」 高裁「ささやかな配慮で」
大阪市生野区で2018年、聴覚支援学校に通う井出安優香(あゆか)さん(当時11)が重機にはねられ死亡し、将来得られたはずの「逸失利益」が争われた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁(徳岡由美子裁判長)は20日、平均賃金の85%とした一審・大阪地裁判決を変更し、健常者と同額を認めた。遺族の弁護団によると、同額とした司法判断は初めてとみられる。
高裁はまず、子どもの逸失利益の算定では一般に個人の能力を問わず平均賃金を使っているとし、「あえて減額することが許されるのは公平性が顕著に妨げられる」ようなケースに限られるとの判断基準を示した。
安優香さんは学年相応の学力があってコミュニケーション能力は高く、難聴があっても「補聴器や手話などを活用し、健常者に劣らない能力を発揮していた」と指摘。障害者が直面する壁は社会が合理的配慮で取り除くべきだという考えのもと法整備がなされ、技術革新が進んでいることも踏まえれば、将来は「ささやかな合理的配慮」で健常者と同じ条件で働けると予想できたとした。
その上で、平均賃金で逸失利益を算定することに「顕著な妨げ」となる事情はなく、減額する理由はないと結論づけた。
被告の運転手側は60%が相当だと主張。23年2月の一審判決は「聴覚障害が労働能力を制限しうること自体は否定できない」とし、聴覚障害者の収入状況などを考慮して平均から15%減額したため、遺族側が控訴していた。控訴審で遺族側は、現状の賃金格差を理由に減額することは「裁判所による差別」だとして、発想の転換を訴えていた。
この日の判決では、遺族側の要望を高裁が認め、法廷に4人の手話通訳人が配置され、傍聴人への同時通訳も実施された。
■逸失利益の問題に詳しい元裁判官の大島真一弁護士の話
判決は安優香さん個人の能力を評価しながらも、急速に変化する社会状況もしっかり反映し、社会が目指す平等を前面に押し出した。障害者は逸失利益を減額されるのが一般的だったが、そうした「常識」をいよいよ取り払ったもので、一つの到達点と感じる。特に減額できるケースを「顕著な妨げとなる事由がある場合」に限定したことには大きな意義がある。今回の判決が新たな基準となり、平等の理念がより一般的になることを期待する。
- 【視点】
当たり前すぎることを当たり前に判断した判決だと思います。 そもそも「逸失利益」という概念をもって賠償金額を定める仕組みそれ自体を考え直すべきではないでしょうか。 逸失利益というのは、事故などによって失われたとされる将来の損失がその労働能力
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