「選挙だから控える」は新聞TVの言い訳 人選びに加担する報道の罪

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聞き手・田玉恵美

 兵庫県知事選では、選挙期間中の新聞やテレビの「沈黙」に厳しい目が向けられました。メディア研究者の水島久光さんは、新聞やテレビの凝り固まった姿勢に警鐘をならしつつ、選挙報道以前の根深い問題も指摘します。選挙はそもそも「人」を選ぶためのイベントではない、という水島さんに現状をどうみているのか聞きました。

 ――兵庫県知事選では、新聞やテレビがSNSに負けたと言われました。

 「いつの時代も、人は最も身近なメディアから大きく影響を受けるものです。『最も身近なメディア』は、もうとっくにネットになっているので、SNSの影響が大きいのは当然でしょう。懸念すべきは、真偽の不確かな情報が蔓延(まんえん)するネットやSNSから報道の存在感が消えていること、報道の喪失感があることです」

 「テレビを見る人や新聞を読む人が減り、報道しても社会に届いていません。テレビや新聞の報道は、もちろん色々なかたちでデジタル空間にも流れてはいます。しかしSNSでは、取材に基づいて責任をもって発信される報道と、人々が日常的に交わしている『おしゃべり』が混在します。報道が『番組』や『記事』として独立して受容されることが難しくなり、おしゃべりのなかで消費されるコンテンツになってしまっているのです」

 「SNSの世界では、他者が置かれた立場や社会問題に思いをはせることよりも、例えば『半径5メートル以内の身近な範囲で自分にどんな影響や利害があるか』という価値のほうが、より重要になっています。既得権益に非常に敏感なのも特徴です。こうした空間では、『こんな人権問題が起きている。社会で議論をして解決すべきだ』といった従来型の報道的なコミュニケーションが、人々に届きにくくなっているという問題もあるでしょう」

 ――選挙中に、テレビや新聞が報道を控える傾向があることに対しても、厳しい批判の声がありました。

 「その問題は、10年ほど前に私が放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会で委員をしていたころから大きなテーマの一つでした。公平・公正な選挙の実施が妨げられることはあってはならない一方、有権者の知る権利にこたえるために、豊富で多様な情報を公平・公正に伝えなければならないという使命が放送にはあります。相当な慎重さが求められるのは確かで、各局は選挙間近の時期に立候補予定者を選挙と無関係の番組で取り上げない、といった基準を自ら定めています」

 「しかし、公平と公正はせめぎ合いがちな概念です。公平性を追求すると公正性が損なわれ、公正性を追求すると公平性が損なわれかねない。公正性を追求して適切な報道をしようとすれば、量的なバランスが崩れるのは当然です。選挙中だと影響も大きい。それゆえ、『公平で公正な選挙報道』と言うのは簡単ですが、実際には非常に重く難しい課題でもあります」

選挙報道以前の問題

 「一方で、選挙だから報道す…

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