渇水、地盤沈下、庭から気泡…リニアトンネル工事、困難続きの1年
リニア中央新幹線の東京・品川―名古屋間は、8割以上をトンネルが占める。今年は岐阜県瑞浪市大湫町の水位低下などリニアのトンネル工事をめぐる問題が相次ぎ、前例の無い難工事の課題を浮き彫りにした。
大湫町の井戸やため池などで水位の低下が相次いでいることをJR東海が公表したのは5月。14カ所で水位の低下が確認され、JR東海は、近くで行われているリニアトンネル工事による湧水(ゆうすい)が原因とみて対策を進めている。8月には大湫町の複数の地点で地盤沈下が確認されたことも明らかになり、今月18日の計測では沈下が最大で7.1センチに拡大した。地盤沈下についてJR東海は「工事との因果関係は不明だが、水位低下の影響も否定できない」と説明している。
大湫町で発覚した問題をめぐり、地元関係者が衝撃を受けたのは、JR東海が8月に発表した「湧水対策工法の再検討」だ。
7月末に鹿児島県の北薩トンネルで、路面の隆起やコンクリート内壁がはがれ落ちるなどの問題が発生した。大湫町のトンネルでは岩盤の亀裂を埋めて湧水を防ぐ同様の対策工事を行っており、「工事との関係が否定できない」として湧水対策の工法を再検討することにしたという。
北薩トンネルでは、大量の土砂と湧水が流入して通行止めが続いている。JR東海の丹羽俊介社長は9月の会見で「中央新幹線の工事で発生させることは、絶対に回避しなければならない」と述べた。今後の対策はまだ決まっていない。
トンネル工事をめぐる問題は、県外でも発生した。
10月、東京都町田市内のリニアトンネル工事の現場近くで、住宅の庭に水や気泡が湧き出た。現場は地下45メートルのトンネル掘進現場から約40メートル離れた場所で、JR東海はシールドマシンによる掘削工事が原因と発表。掘削は中断された。
リニア沿線の地元からは開業時期への心配の声も上がる。
JR東海は3月、品川―名古屋間について、目標としていた2027年の開業を断念する方針を示した。開業は早くても34年以降にずれ込む見通しだが、大湫町の水位低下など問題解決のめどはたっていない。地元からは「また延期されるのでは」との声も上がる。
今月23日には、中津川市に建設される岐阜県駅(仮称)の完成が当初予定よりも6年9カ月延期され、31年12月になるとの見通しも発表された。同市の小栗仁志市長は「延期はまちづくりや地域住民の生活に大きな影響がある。工事の早期完了に向け全力を挙げて取り組んでいただきたい」などとするコメントを発表している。