佐伯啓思さんがみるトランプ再来 SNSが崩した近代社会の大原則
佐伯啓思の異論のススメ・スペシャル
21世紀は情報社会であり、それを支えるものはデジタル技術である。この20~30年におよぶデジタル革命は、まちがいなくわれわれの生活を大きく変えてしまった。とりわけSNSが社会に与える影響は途方もなく大きく、様々な問題を生み出している。
オーストラリアでは、SNSを通じた犯罪に子供が巻き込まれたり、またSNS上の情報によって精神的な苦痛を受けたりするケースが多発し、議会が16歳未満の子供のSNSの使用を禁止する法案を可決した。思い切った法的措置だが、事態はそれほど深刻なのであろう。またそれは決してオーストラリアだけの問題でもない。
SNSが政治に与える影響は、日本でも、先ごろの兵庫県知事選挙において大きな話題になった。知事としての適格性が問われた斎藤元彦氏の再選は、SNS上の情報がなければありえなかったであろう。SNS情報が選挙結果を左右しかねないのである。
興味深いのは、ここで「既存のマスメディア」対「SNS」という構図ができたことである。新聞・テレビ等の既存のマスメディアは公式的で表面的な報道しかしないのに対し、SNS上ではマスメディアが語らない隠された真実、本音が語られるとみなされた。
もちろんSNS情報は玉石混交であり、言葉は悪いが味噌(みそ)もくそも一緒に詰めこまれているのだが、その中には「隠された真実」が含まれているというのである。
「陰謀」信じるトランプ支持者
いうまでもなくこのような構図を最大限に利用したのはトランプ次期米大統領であり、トランプ氏は、既存のマスメディアに対し、真実を報道しないフェイク・メディアと罵声をあびせ、自身の言葉をSNSで発信して拡散した。トランプ氏は「権力をもつ既存メディア」対「真実を語るSNS」という構図を利用したわけである。
この「トランプ現象」の特徴…