天才の晩年は傑作の隠し味 落語「ラーメン屋」の演じ手が増えたわけ
井上秀樹
このごろ、気になっている噺(はなし)がある。「ラーメン屋」という。
40年連れ添って子どものない老夫婦のラーメン屋に、青年が食べに来る。3杯食べてから、無銭飲食で警察へ突き出してくれと言う。親は亡くなり仕事には恵まれない。そんな不遇を聞いた夫婦は、青年を家に連れ帰る。酒を振る舞い、「おとっつぁん」「おっかさん」と呼ばせ、それぞれ礼金を出す。青年を名前で呼ぶなど打ち解けた末、青年は金を返し、頼みを切り出す。「せがれと呼んでください」
五代目古今亭今輔が1965年に「落語漫才作家長屋」で初演した、新作落語。戦争孤児を思わせる青年の描写に、時代の影が差す。
76年に今輔が死去した後、孫弟子の古今亭寿輔がまず継いだ。師匠や一門の先輩がやるだろうと遠慮したが、気配がない。10年ほどして、今輔の息子で曲芸師の鏡味健二郎に許しを得て口演を始めた。
寿輔の目印は、黄色や桃色の派手な着物。83年に真打ちになる直前から着ているのは、どんな格好でも人情噺の中身は伝わると証明したかったからだ。
チンドン屋のようと自称する…
【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら