救急車の「実質的な有料化」、茨城県で開始 迷わずに呼ぶべき事例は
救急車で大病院に運ばれた際、緊急性が認められなければ、お金を徴収される――。そんな地域が出始めている。6月から3病院で徴収する三重県松阪市に続き、茨城県でも22病院で12月2日から始まった。救急医療現場の逼迫(ひっぱく)を背景に、安易な利用を減らすためだが、専門家は実質的な「救急車の有料化」と指摘するなど、受診抑制を懸念する声もある。救急医療のあり方が問われている。
「75歳女性、たぶん糖尿病がらみで動けません」。2日午後、いばらき消防指令センター(水戸市)。119番通報を受けた職員が住所や病状などを聞き取り、通報者に伝えた。「救急車の手配ができました。5、6分で到着になります」
茨城県内の22の大病院では同日から、救急車で運ばれてきた患者に緊急性がないと判断すれば、1100~1万3200円を請求する運用が始まった。初診で大病院に紹介状なしで受診した際に徴収する「選定療養費」だ。千葉や埼玉、福島など近隣県から搬送された場合も例外ではない。
茨城県内の病院はこれまで、救急搬送は「基本的に緊急性が高い」とみなし、患者に選定療養費を求めていなかった。センター長の小林良導(よしみち)消防監は「今後、救急医療の負担が減れば、重篤な患者の命をより確実に救える」と期待を寄せる一方で「通報をためらわず、少しでも緊急性があると思ったら、遠慮なく呼んでほしい」と話した。
県医療政策課によると、県内の救急搬送件数は2023年に14万件を超え、過去最多となった。近年は6割以上が一般病床数200以上の大病院に運ばれており、半数近くが軽症という。「包丁で右手指先を切り、血がにじんだ」「3日前から風邪の症状が続いて、家族が心配した」として救急要請を受けたケースもあったという。
救急隊が119番通報を受けてから患者を病院に運ぶまでの救急搬送時間は平均48.3分で全国平均を上回る。また、搬送先の病院が決まるまでに時間がかかった重症者の人数が増えている。
大井川和彦知事は7月の会見で、危機感をあらわにした。「救急車が無料のタクシー化している。一分一秒を争う救急搬送、救急医療のリソースを取られてしまうのは、非常に大きな問題だ」
選定療養費を徴収するかどうかは各病院が判断するため、県は徴収の目安を示している。「微熱(37.4度以下)のみ」「打撲のみ」「慢性的または数日前からの歯痛や腰痛」などの症状は緊急性が低いと例示し、「とりあえず救急車」ではなく、かかりつけ医や地域の診療所などの受診を勧める。
逆に「物をのどに詰まらせて、呼吸が苦しい」「けいれんが止まらない」「広範囲のやけど」などの症状があれば、緊急性があると判断される可能性が高いとし、ためらわずに救急車を呼ぶよう促している。
救急車で運ばれてきた軽症患者から選定療養費を取ることは厚生労働省が認めており、既に徴収している医療機関もある。さらに、茨城県のように、自治体主導で取り組む事例が出始めた。
救急車を呼ぶべきかどうかーー。茨城県が示した目安の一覧表は、記事の末尾で紹介しています。
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