2歳娘の傷害致死、高裁が逆転無罪 5年半の勾留後に異例の保釈中

山本逸生 大滝哲彰
【動画】2歳の娘への傷害致死などの罪に問われた男性に、大阪高裁が逆転無罪判決を言い渡した=伊藤進之介撮影

 当時2歳の娘に暴行して死なせたなどとして、傷害致死などの罪に問われた今西貴大被告(35)の控訴審判決で、大阪高裁(石川恭司裁判長)は28日、懲役12年とした一審・大阪地裁判決を破棄し、無罪を言い渡した。頭蓋(ずがい)内の損傷を暴行と結びつけた一審の判断手法は「不合理だ」とした。

 今西被告は2017年12月、大阪市内の自宅で何らかの暴行で娘の頭蓋内に損傷を負わせ、1週間後に死亡させたなどとして起訴された。一貫して無罪を主張していた。

 頭部に外傷はなく、高裁は「頭部への強い外力によって心肺停止に至った」という検察側の主張を認めるには、表面を傷つけずに脳深部まで損傷させる暴行があり得ることの「具体的な立証」が前提になるとした。

一審の認定は「論理の飛躍」

 その上で、一審が重視した「脳幹に損傷がある」という検察側請求の医師の証言について、矛盾する専門家証言もあり、頭部のCT画像の見方にも疑問があると指摘。嘔吐(おうと)や誤嚥(ごえん)による窒息が原因の可能性も否定できないとし、「被告の暴力以外に考えられない」という一審の認定は「論理の飛躍」だと判断した。

 肛門(こうもん)に約1センチの傷を付けたとする強制わいせつ致傷罪についても、「自然排便では生じない」との医師の証言のみをもとに暴行と評価した一審の判断は不当だと批判。足の骨を折ったとする傷害罪については、一審に続いて無罪とした。

 今西被告は18年11月、大阪府警に殺人容疑で逮捕され、傷害致死罪などで起訴された。約5年半の勾留を経て今年7月、一審で長期の実刑判決を受けたケースとしては異例の保釈をされていた。

 判決を受け、大阪高検の小橋常和・次席検事は「判決内容を精査した上で、適切に対応したい」とコメントした。

弁護団「刑事司法の理念に沿った判断」

 当時2歳の娘に対する虐待を疑われ、傷害致死罪などに問われた今西貴大被告(35)の控訴審判決で、大阪高裁は28日、無罪を言い渡した。

 「うれし涙を一緒に流そうと言った皆様との約束を、ようやく果たせました」。判決後、弁護団と会見に臨んだ今西被告は喜びを語った。

 高裁は「暴行死」の根拠について、検察側の立証が不十分だったと認めた。川崎拓也弁護士は「『印象』に左右された判断だった一審判決をかなり強く批判している。立証責任を果たしていないから無罪、という刑事司法の理念に沿った判断だった」と評価した。

 秋田真志弁護士も「医師の医学的所見のみで、一審判決のいう『強い外力』が加わったことを認定すること自体には限界があると明示した。しっかりと問題提起になっている」と強調した。

 今西被告は「殺人容疑」で2018年11月に逮捕され、いったん釈放された後、翌19年2月に傷害などの疑いで再逮捕された。「娘が亡くなって、逮捕され、幸せな生活が破壊されました」

 GPS端末や監視カメラを付けるといった条件で今年7月に保釈されるまで、勾留は約5年半続いた。今西被告は「手紙も検閲され、様々な自由が拘束されて苦しかった」という。

 川崎弁護士は「ようやく今西さんを普通の生活に戻してあげられる」としつつ、「長期間の不当な拘束があったことには変わりない」と批判。「安易な身体拘束は許されるべきではない。保釈の運用のあり方も柔軟に考えるべきだ」と訴えた…

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この記事を書いた人
山本逸生
国際報道部
専門・関心分野
格差、事件、労働