がんになった40代編集者の最期の日々 餓死した兵士の日記への思い

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聞き手・中島鉄郎

 誰かがこの世に刻んだ生きた証しが、全く縁のない人に届き、その心を支える――。45歳で死去した編集者、岡田林太郎さんのブログと日記をまとめた「憶えている」(コトニ社)は、そんな不思議さを考えさせる本だ。人生を共にした岡田裕子さんに聞いた。

未来の他者へ思い出を投げかける

 夫の岡田林太郎は、大学卒業後16年勤めていた出版社をやめ、2018年4月に「みずき書林」という1人だけの出版社を創業しました。21年夏、体調に異変を感じて入院した検査の過程でスキルス胃がんであることが判明し、療養しながら仕事を続けましたが、23年7月に亡くなりました。

 その間に書きつづったブログ・日記が死後の昨年秋に旧知の編集者の手で「憶えている――40代でがんになったひとり出版社の1908日」(コトニ社)という本にまとめられました。

 この本は、いわゆる闘病記ではありません。サラリーマンとして働いて独立創業し、その後末期がんになった自身のライフストーリーを描いています。夫は「勇敢に、丁寧に生きていきたい」と書いていますが、死を前にしても筆致は乱れず、最後まで一貫して冷静な姿勢でつづられています。

 書籍は、過去の自身のブログを引用し、それについての現在の思いをつづる構成になっています。思いを巡らせる「現在」は、末期がんの宣告を受けてから亡くなるまでの時間に当たります。

 こんな文章があります…

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