「覚醒剤の密売人」も証言…でも残る謎 記者が見たドン・ファン裁判

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伊藤秀樹
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 「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家が殺害された。その遺産は約15億円。被告として法廷に立ったのは、死の3カ月前に結婚した55歳年下の元妻――。

 9月12日、和歌山地裁であった裁判員裁判の初公判。約80席の傍聴席は、抽選に当たった人らで埋まっていた。

 元妻の弁護人が、裁判員たちに体を向けて語り始めた。

 「怪しいからやっているに違いない。もし、それで結論が決まるなら、この裁判をやる意味がない。これから出てくる証拠を一つ一つ見て判断していただくことになる」

 傍聴席にいた記者(47)にとって、新人の頃以来約20年ぶりの裁判取材だ。自分が裁判員になったつもりで公判に臨んだ。

 殺人などの罪に問われた元妻、須藤早貴被告(28)。公判が進むにつれ、ワンピースからジャケット姿に変わったが、色は決まって黒。感情はほとんど表に出さず、マスク越しで表情はうかがえない。

 起訴状などによると、2018年5月、和歌山県田辺市の自宅で、当時の夫、野崎幸助さん(当時77)に致死量を超える覚醒剤を摂取させて殺害したとされる。

 初公判では、元夫のことを「社長」と呼んだうえで「殺していませんし、覚醒剤を摂取させたこともありません」。早口で、消え入りそうな声だったが、起訴内容を否認し、自らの無罪を主張した。

 一方、検察側が冒頭陳述で描いたのは、須藤被告が莫大(ばくだい)な遺産を得るために覚醒剤を使って「完全犯罪」を実行した、という構図だった。

弁護人が投げかけた「そもそも」

 結婚したその月からインター…

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