「夜食べると太る」魚の養殖に応用、脂が乗って美味に 長崎大が研究

天野光一

 ダイエット本でよく見かける「夜食べると太りますよ」という警告。その仕組みを逆手にとれば、脂の乗った魚を短い期間で育てることができるのではないか。そんなユニークな着想の研究が、長崎大学水産学部で進められている。

 取り組んでいるのは「時間栄養学」を研究している平坂勝也教授(46)。時間栄養学とは、「何をどれだけ食べるか」を重視してきた従来の栄養学の視点を変えて、「いつ食べるか」に着目した新しい学問だという。

 人間であれば、朝食時にたんぱく質を取れば、筋肉が付きやすいという手法をアスリートが取り入れている。平坂教授は発想を転換して、その手法を魚に応用しようとしている。

 実証実験は2022年に本格的に始まった。海水を大量に利用できる設備がある長崎鶴洋高校(長崎市末石町)の設備を使って実施。水産クラブの生徒11人が魚にえさをやったり、体長と体重を測ったりして協力した。

 大学の研究への参加は高校生に刺激を与えた。

 3年生の山口櫂さん(18)は「大学の雰囲気も分かるし、面白い研究で楽しかった。できれば長崎大で平坂教授と研究を続けたい」と話す。

 23年は朝の午前8時にえさを与えるシマアジの群れと、夜の午後7時に与える群れを比較した。

 1カ月ほどして比較すると、夜にえさを食べた群れは、朝食べた群れより血中の中性脂肪が1・7倍多かった。筋肉中の中性脂肪も1・2倍程度。平坂教授は「夜に食べた群れは、いわゆる脂の乗った魚の味がしておいしい」と話す。

 魚の筋肉中の酵素の増減などを分析した結果、シマアジにも朝の光を浴びて働く約24時間の体内時計があるとみられる。中性脂肪が増えるのは、夜の不規則な食事が体内時計のリズムを弱め、代謝障害を引き起こしている可能性が高いと、平坂教授は分析する。

 長崎大は日本固有種のブリを養殖して海外に輸出しようという「ジャパン鰤(ぶり)」というプロジェクトを推進している。

 研究を発展させれば、短期間で脂の乗ったブリを育てられるのではないか。平坂教授は「ゲノム編集や薬を使った養殖よりも、われわれの手法の方が、自然の仕組みを活用するだけなので消費者から受け入れられやすいのでは」と期待する。(天野光一)

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この記事を書いた人
天野光一
長崎総局
専門・関心分野
農業、安全保障