立憲民主党の枝野幸男前代表の回答(全文)

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 立憲民主党枝野幸男前代表が、朝日新聞の質問に文書で回答した内容の全文は以下の通り。

        ◇

ご質問に取り急ぎ簡潔にお答えします。

◎いわゆる個別的自衛権が合憲であることの根拠たる判例は、1959年(昭和34年)の砂川事件最高裁判決である。

最高裁は、この判決で、「わが国が、自国の平和と安全とを維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置を執り得ることは、国家固有の権能の行使であって、憲法は何らこれを禁止するものではない。」としている。

○旧三要件(個別的自衛権発動の要件)と言われる「我が国に対する急迫不正の侵害があること」は、この砂川判決の法理に基づいている。

○したがって、「我が国に対する急迫不正の侵害」とは、「自国の平和と安全を維持しその存立を全う」できなくなるような侵害を意味する。

○すなわち、本来の「わが国に対する急迫不正の侵害」には、新三要件で言う「存立危機事態」=「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」事態が含まれると解される。砂川事件判決で最高裁の認める自衛権発動の要件には、この範囲まで含まれ、この範囲で講学上「個別的自衛権」と呼んできたと解すべきである。

ところが、閣議決定によって変更された新しい要件=新三要件は、

○「我が国に対する武力攻撃が発生したこと、『又は』我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」とされた。それまでの「我が国に対する急迫不正の侵害が発生したこと」という文言を、「我が国に対する武力攻撃が発生したこと」に狭めた上で、これとは別の事態、外側の事態として、新たに存立危機事態を位置付けた。このことは、閣議決定において、この二つの要件が「又は」という並列の接続詞でつながれていることからも明らかである。

○従来から認められていた要件の外側に、これと並列的に「存立危機事態」を位置付け、それを個別的自衛権の外側、つまり集団的自衛権と位置付けたのが、政府解釈の混乱の本質である。この部分を是正し、たとえば「我が国に対する急迫不正の侵害(我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合を含む)」と位置付ければ、本来の個別的自衛権の範囲で説明可能となる。

なお、この場合も、「我が国に対する武力攻撃が発生」または「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」という要件は、先制攻撃を認容しないための要件として別途必要になる。

◎そもそも国際司法裁判所では、集団的自衛権は国際法上「他国防衛するための権利である(他国防衛説)」との判例が重なっている。日本政府と安保法制に言う「存立危機事態」における自衛権の発動は、あくまでも我が国の存立を維持するためのものであり、他国防衛の目的ではなく、その範囲にとどまる限り集団的自衛権ではない。

◎なお、本件について「ファクトチェック」の文脈で取材され、「元内閣法制局長官防衛省幹部、内閣官房の『見解』によれば」ミスリードと指摘しているが、文字どおり、法解釈における『見解』の違いであり、「ファクト」の正誤とは全く別次元である。事実関係の正誤に関する問題と、見解の相違の問題について、混同されないよう求める。

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