第4回夜中の電話は金の無心 妻アニータは語った「貧乏な人たちに病院を」

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坂本泰紀

 《青森県住宅供給公社の職員、千田郁司(ちだゆうじ)は1997年8月、チリで結婚式を挙げた。日本に帰国後、妻となったアニータ・アルバラードから、金の無心の電話がかかってくるようになった》

 はじめは生活費だよね。「家族多い私」って言うから、「えっ娘と息子と3人でしょ?」って聞いたら、「お父さん、お母さん、お姉さん、妹、お姉さんや妹の旦那さん……。みんなお金欲しい、私ぜんぶお金払ってる」。

 月々の生活費はカードで引き出せと言っていたんだけど、1日30万とか引き出されていて通帳はいつもゼロ。チリとは12時間の時差があるから、「お金足りなくなったから送って」という電話が夜中にかかってくるようになった。

 2回目のチリは、97年の12月。チリは真夏だったけど、アニータにアタカマ砂漠に連れて行かれたんだよね。山の中のテントに、よだれを垂らし、おなかの膨らんだ子どもたちがいた。ハエもたかっていてね。

 飢餓に苦しむ子どもたちは、テレビとかでは見たことあったけど、自分事とは思ったことはなかった。苦労してきた人間だったら違う感情があったかも知れないけど、俺は両親が公務員で、金も生活も何一つ苦労しないで生きてきた。だから、そういう光景見て涙がこぼれちゃったんですよ。

青森県住宅供給公社の巨額横領事件とは

23年前に発覚した青森県住宅供給公社を舞台にした14億円超の巨額横領事件。当時、青森支局員だった記者が、刑期を終えた元公社職員に50時間を超えるインタビューを行いました。彼が語った事件とは。連載の後半では、金を受け取ったとされるチリ人妻から届いたメッセージも紹介します。記事中の敬称は省略します。

首都サンティアゴから一歩出たら貧乏な人がいっぱいいるという、チリの現実を目の当たりにした。

 アニータからその時、「貧乏…

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    浅倉拓也
    (朝日新聞記者=移民問題)
    2024年10月15日15時11分 投稿
    【視点】

    横領はもちろん正当化できませんが、天下りが上役を占める組織で、上に上がることのない生え抜きの職員が「利用するだけ利用してやろう」と思う気持ちは想像できなくもありません。そういう意味で、貧しい環境から「カネで何でも手に入ると思っている」日本に

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    後藤洋平
    (朝日新聞編集委員=文化、ファッション)
    2024年10月16日10時6分 投稿
    【視点】

     「青森県の住宅供給公社にこんな金あったのか?」。本当に、警察じゃなくても真っ先に思いますよね。その「カラクリ」の詳細に驚きました。  そもそも、この連載シリーズは毎回驚きの連続なのですが、今回は千田氏本人が淡々と語る具体的な手法にグイグイ

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連載アニータの夫(全13回)

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