歌い継がれる「愛の讃歌」 日本に息づくシャンソン、生命力の源は

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藤崎昭子

 フランス生まれの大衆歌謡シャンソンは、日本では戦前から、日本語詞で歌われ親しまれてきたジャンルでもある。

 パリ・オリンピックの開会式では、セリーヌ・ディオンが披露した「愛の讃歌(さんか)」が話題を呼んだが、この曲は日本では、日本のシャンソンを代表する大スター・越路吹雪(1924~80)が歌ったことでもよく知られる。

 また、放送中のNHK連続テレビ小説「虎に翼」では「モン・パパ」が要所要所で歌われるが、これももとはフランス語のシャンソンで、日本では喜劇王・エノケン(榎本健一)らが歌い人気だった。

 なぜ、日本でシャンソンはこれほど親しまれてきたのか。日本人にとってのシャンソンとは、どんな存在なのか――。今の日本のシャンソン界をリードしている歌手・クミコさんと、越路の公演でアドバイザーを務めた音楽評論家・安倍寧さんに聞いてみた。(藤崎昭子)

歌手クミコさん「人間同士が認め合う、太い愛」今こそ

 クミコさんは1954年生まれ。越路が初めて「愛の讃歌」をレコーディングした年だ。

 日本の多くのラブソングは、誰かを「好きだ」という「感情」を表現するが、一方でシャンソンは趣が異なるとクミコさんは考える。

 越路の代表曲である「愛の讃歌」について、クミコさんは「『私はあなたを愛す』という『意志』の曲。物語や人物設定はなく、愛する意志だけしかない。歌い手の愛への意志が堅固でないとスカスカになりがち」と評する。

 この「愛の讃歌」は、岩谷時子がつけた日本語詞で広く親しまれている。同曲のほかにも、越路が歌うシャンソンには、岩谷が訳詞を手がけたものが多い。

 「貧しかった日本で、すてきなドレスを着て愛や恋、女性の自由を表現した越路さんのステージにはすてきなものがたくさん詰まっていた。岩谷さんは、女性の裏側やしたたかさも描く言葉力がすごい。(岩谷が手がけ佐良直美が歌った)『いいじゃないの幸せならば』もそうでしたが、一筋縄ではいかない女性、『自分は自分』とイニシアチブをとる女性たちを描いてきた」とクミコさん。「越路さんと岩谷さんという最強のタッグと、美しいメロディーが結びつき、日本にシャンソンを広める大きな力になった」と指摘する。

 また、シャンソンには社会や時代を見据えた曲も多いが、通底するのは愛を歌うことだとみる。

 「『帰り来ぬ青春』のシャルル・アズナブールや、反戦歌『愛しかない時』のジャック・ブレルのように、フランス国外にルーツを持つ多くのアーティストもシャンソンの歴史を作ってきた。多様性の国で誰もが基本的な概念として共有できるのは『愛』。シャンソンに息づく愛は、人を人として認め合う、とても太いものなのでしょうね」

 7月に発表したアルバム「私の好きなシャンソンVol.2~シャンソンティックな歌たち~」には「愛の讃歌」などのスタンダードナンバーに加え、美輪明宏の「ヨイトマケの唄」も収録した。

 「シャンソンには社会や時代…

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