ボクシング女子、検査の議論 テストステロンや染色体の影響と研究
パリ・オリンピック(五輪)の女子ボクシング選手の出場資格に関する出来事が注目されている。昨年の世界選手権で「失格」とされた2人の選手について、根拠なくトランスジェンダーだと決めつけるなどの誹謗(ひぼう)中傷も起きた。
多様な性のあり方はどのように考えればよいのか。またスポーツとの関係は。千葉大学大学院の医学研究院客員准教授で、これまで育成年代のサッカー女子日本代表のチームドクターを務めてきた貞升彩さんに話を聞いた。
信頼性に疑い残る会見
――昨年の世界選手権を管轄した国際ボクシング協会(IBA)が5日に会見を開き、失格にした2選手について「(男性に多く見られるホルモンの)テストステロン値が男性並みだった」という趣旨の発言をしました。
まず、IBAは国際オリンピック委員会(IOC)から組織のガバナンスに問題があるとして、統括競技団体としての承認取り消しを受けている、ということを押さえる必要があります。
加えてIBAは、大会に参加している選手の性について、どのような手順を踏んで調査や検査を開始するのか、プロセスを公表していません。
本来は医学だけではなく法律、メンタルケアなど外部の専門家なども加えて専門チームを形成し、まずは状況の把握と情報収集を行い、選手に対して診察や医学的検査が必要かを判断します。必要な場合は次に問診など手順を追って行われ、その後に医学的な検査に進みます。
IBAの会見で、ドクターからは性別に関する規定やプロセスの説明はなく、今回行ったとされる血液検査の詳細も明らかにされませんでした。やはり信頼性に疑いが残ると言わざるを得ないと思います。
――テストステロンとはどのようなものなのでしょうか。
アンドロゲンと呼ばれる、男性に多く見られるホルモンの一種です。筋力、筋量、骨の長さ、骨格、持久力などの増加に関わり、運動能力にも影響を与えます。
たとえば陸上を統括する世界陸連では、女性アスリートが高いテストステロン値を示し性分化疾患(DSD)があるのであれば、女子カテゴリーに参加するために、血中のテストステロン値を2・5nmol/Lまで下げる必要があると定めています。
一方、国際サッカー連盟(FIFA)では女子カテゴリーへの参加規定はありませんが、選手の性別を確認するプロセスの規定があります。
ただ、テストステロン値には個人差があります。人種による影響も考えられますが、詳しいところは分かっていません。
今回誹謗中傷を受けた2人に性分化疾患があるかどうかは分かりませんが、性分化疾患には多くの状態が含まれます。
また婦人科疾患である多囊胞(のうほう)性卵巣症候群を抱える女性でテストステロン値が高くなることも指摘されています。そのため女性アスリートのテストステロン値が高いというだけで、性分化疾患であると判断することはできません。
記事後半では、今回の議論を巡る倫理的な課題や、それに伴うジレンマ、情報を受け取る側に求められるものなどを聞いています。
――性分化疾患とは。
DSD(Differenc…
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