田中美津さんがウーマンリブに「肉声」を与えた 上野千鶴子さん寄稿

有料記事

寄稿・上野千鶴子さん(社会学者)

 田中美津さんが逝った。

 日本のウーマンリブの旗手、と呼ばれた。今でもウーマンリブは欧米から日本に「上陸した」と思っている人たちがいる。日本のリブにはそれを引き起こす固有の背景があり、それに借り物でない肉声を与えたのは美津さんである。1970年の10月21日、国際反戦デーにまかれた無署名のちらし、「便所からの解放」は、美津さんが書いた日本のリブの記念碑的マニフェストだった。「便所」こと、男の性欲処理機としての女性の搾取は、半世紀経った今日も、なくなっていない。妻・母と娼婦(しょうふ)、軍神の母と「慰安婦」の分断と対立もなくなっていない。

 リブはリベレーション、自由になること。女性解放は何より男たちが女に与えた指定席からの自由を求めた。同時代の男たちが、「革命」という非日常を求めて日常を犠牲にしようとした時、リブの女たちは男たちを日常に引き戻し、日常を「戦場」にした。爆弾テロや銃撃戦より、いま・ここの赤ん坊のおむつを誰が替えるのか、その方が生きることにとって、もっと切実で重要な課題だとつきつけた。この問いに答えきれた男たちはいただろうか?

 エリート男たちが「自己否定…

この記事は有料記事です。残り782文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません