トランプ氏に発射されたイデオロギーとは無縁の銃弾 NYTコラム

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ミッシェル・ゴールドバーグ

 トランプ前大統領の暗殺未遂という卑劣で凶悪な事件が起きて以降、前大統領の盟友はよってたかって、トランプ氏は民主主義への脅威だと警告してきた人たちを非難した。トランプ氏のランニングメイト(副大統領候補)となったオハイオ州選出のJ・D・バンス上院議員はソーシャルメディアに「バイデン大統領の選挙キャンペーンの大前提は、トランプ氏が独裁的なファシストであり、何としても当選を阻止しなければならないというものだった」と書き込み、「こうした物言いが直接的に暗殺未遂につながったのだ」と続けた。被害者としての義憤に駆られたトランプ陣営は、トランプ前政権の独裁ぶりや、復讐(ふくしゅう)心に燃えた脅しについて議論することは(暴力の)扇動にあたるとして、今年の大統領選の核心となるべき争点を、聖人めかしたうさん臭さの中に押し込めようとしている。

 共和党の偽善をつまびらかにし、トランプ氏が政敵に対する暴力を何度もあおってきたことを書き連ねるのはさして難しいことではない。だが今回の場合、その政治的分断のレトリックに関する論争は、悪意に満ちただけのものとも言えないようだ。容疑者について知れば知るほど、彼の行為を従来のイデオロギーの文脈で考えるのは的外れに思えてくるからだ。事件にはまだ不明な点が多い。しかし、背景にあるのは党派的な狂信というより、孤独で社会との接続を失った若者がニヒリズムへと過激化した危機であるように思える。

容疑者は活動家ではなく「のけ者」か

 集会に参加していたコリー・…

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    津山恵子
    (ニューヨーク在住ジャーナリスト)
    2024年7月31日19時59分 投稿
    【視点】

    ミルウォーキーの共和党大会を取材した際(トランプ氏が銃撃された2日後)、支持者らが口々に「民主党と左派の仕業だ」と言った。民主党などと言わないまでも「分かるでしょ」という人もいて、同調する空気に満ちていた。トランプ氏を非難してきた人々は今や

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連載ニューヨーク・タイムズ コラムニストの眼

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