大河「光る君へ」支える男性貴族の日記 「小右記」が異例のヒット
紫式部を主人公にしたNHK大河ドラマ「光る君へ」は大石静さんのオリジナル脚本だが、裏の「原作」ともいえるのが、平安貴族たちの日記群だ。大河史上で初めて摂関政治の全盛期を描くドラマの史実を支えている。
貴族たちが政務を評議する「陣定(じんのさだめ)」で決まった施策などに「ありえん」「筋が通らぬ」と言いながら、事の次第を巻物状の紙にしたためる……。ドラマで秋山竜次演じる藤原実資(さねすけ)(957~1046)の日記「小右記(しょうゆうき)」が売れている。読みどころを集めた角川ソフィア文庫の抜粋版は昨夏の刊行以来、7刷で1万部を超えた。大河の時代考証を担う倉本一宏さんの編集で、同じく編者を務めた全16巻の現代語全訳(吉川弘文館)も昨春、完結した。
「源氏物語や枕草子は千年紀や映像化のタイミングで売れることはあったが、平安期の男性貴族の記録がこれほど動いたことはない。貴族のふだんの生活に興味を持つ人が増えているようです」と話すのはソフィア文庫編集長の伊集院元郁さん。同文庫には藤原道長の「御堂関白記(みどうかんぱくき)」、藤原行成(ゆきなり)の「権記(ごんき)」もあり、共に好評だ。
道長より9歳年長で数え90歳で亡くなった実資は当時の公卿(最高級官僚)を長く務める間、60年余にわたる日記を残した。宮中の政務や儀式、日々の出来事について細かく書き記すなかに、ちらりと感想を述べているのが興味深い。たとえば、万寿2(1025)年7月11日の日記には「公領、立錐(りっすい)の地無きか。悲しむべき世なり」とあり、道長一家により、荘園の寡占が進む現状を嘆いている。
同文庫の「御堂関白記」の編者で神奈川大日本常民文化研究所特別研究員の繁田信一さんは2人の日記の違いについて、こう話す。
「貴族は世襲制です。日記は…