任命拒否も、あの日の理不尽も記録して 加藤陽子さんの闘い方

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聞き手 田中聡子 編集委員・高橋純子

 歴史学者として、日本学術会議の任命拒否問題の当事者として、そして女性として、静かに周りを見つめている。日々の出来事をメモに書き付け、読み返し、歴史に位置づけ直す。傷ついたことも理不尽な経験も。加藤陽子さん、周到に、しなやかに闘うその目線の先に何があるのですか?

悪い制度に出会ったら

 ――研究室の名札は「野島陽子」なんですね。

 「現在の戸籍名です。論文執筆時などに研究者名『加藤陽子』が確保できていれば、他はこだわらず『野島(加藤)陽子』なども使っています。もちろん選択的夫婦別姓論者です」

 「1996年に夫婦別姓を選べる法改正案を法制審議会が答申しても、与党内の多数ではない『不自然な少数』の反対で法案化できずにきた。明治憲法の実質的起草者・井上毅(こわし)が女帝を認めなかった理由は、なんと、姓が変わるからでした。姓が変わる、すなわち『易姓』とは中国における王朝の交代を意味します。『姓が変わったら終わりだ』という思いがあるのでしょう。反対論の根幹にある特異な歴史観を見据えた闘い方が必要です」

 「私の配偶者は予備校で日本史を教えています。彼の姓を私の姓に加えて用いるのは、大学で日本史を選択しようとする学生への参考情報になるかもしれないとの考えもありました。これまで大学に通称使用届などを出したことはありません。『悪い制度に誠実に対応しすぎない』ことが大事で、やってしまえばいいんです」

伊藤野枝にひかれる理由

 ――アナーキーですね。昨年…

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    小熊英二
    (歴史社会学者)
    2024年8月1日9時32分 投稿
    【視点】

    渾身。必読。

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    磯野真穂
    (東京工業大学教授=応用人類学)
    2024年8月1日12時4分 投稿
    【視点】

    > 「相手を調べる、絶対に誤解をしない、軽んじない、過大評価しておく。もし闘う時が来たら絶対に負けないところまで調べ尽くして、相手の退路を断っておくのです」 文字面だけ見ると怖い感じがしますが、「もしもの闘い」の局面において加藤さんのこの

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