第1回荒川河川敷にベトナム人1500人熱気 サッカー大会、警察もブース

TOKYOベトナム人物語

平山亜理 内田光

 「モ・ハイ・バー!(1、2、3)」。ユニホーム姿の若者たちが円陣を組んで、気勢を上げた。4月上旬、さいたま市西部を流れる荒川の河川敷グラウンドであったベトナム人らのサッカー大会「FAVIJA KANTO CUP 2024」のキックオフだ。

 集まったのは関東地区に住む留学生や技能実習生、特定技能などの在留資格で働く在日ベトナム人ら約1500人。日差しが照りつけ汗ばむ陽気のなか、職場の仲間や同郷者でつくった40チームが賞金と全国大会への切符をかけて競い合った。

 ピッチ際を大勢の観客が囲み、目の前で繰り広げられるプレーに声援が飛ぶ。ベトナムの音楽が流れ、ダンスを楽しむ若者もいるなど、会場は小さなベトナムといった雰囲気だ。

 神奈川県内のチーズ製造工場で、特定技能の在留資格で働くグエン・バン・クアンさん(28)は「日本での生活は大変だけど、週末にサッカーをすると元気になります」。

 特徴的なのは、プレーの激しさだ。

 大会の審判委員長で、蕨市サッカー協会(埼玉県)の吉村靖幸さん(57)は「日本人にはないハングリーさがある」と驚く。

 勝負にこだわる余り反則も多く、以前は試合中に殴り合いのけんかもあったという。ケガをされては困ると、レッドカードは5千円、イエローカードは2千円を徴収するという独自ルールが生まれた。罰金は運営費に充てているという。

 審判員の田中寿雄さん(62)も「中はベトナムで、外は日本。この線の内外で二つの国を行き来している感じ」と話す。

 独特なルールは、ピッチ外にも存在する。

 一つは、大会参加には在留カードの登録が必須だ。これでオーバーステイなど違法な在留状態の人は参加できなくなる。

 もう一つは、ゴミのポイ捨てや駐車違反でも2千円の罰金が科され、3回違反すると永久に参加資格を失うという重いものだ。

 なぜ、サッカー大会にこれほど厳しいルールが生まれたのか。

 2017年から大会を主催する一般社団法人「日本ベトナム国際交流機構(FAVIJA)」の代表理事ドー・クアン・バーさん(45)によると、それまでにも在日ベトナム人たちのサッカー大会はあった。だが、ゴミのポイ捨てや違法駐車で会場を借りられなくなったり、犯罪に加担したベトナム人を逮捕するため会場に警察車両がやってきたりと、問題が山積していたという。

 初めて母国を離れ、ホームシックになる若者たちが麻薬や賭け事などの誘惑に負け、道を踏み外すケースを何度も目にしてきたバーさん。「若者が悪い道に行かないように、健全な遊び場をつくりたい」。そう考えて始めたのが「FAVIJA CUP」だ。

 今では関東大会の予選で80チーム、北海道から沖縄まで全10地区で500以上のチームが参加する大きな大会に成長した。

 日本のルールを知ってもらう絶好の機会だとして、20年からは警視庁の国際犯罪対策課が関東大会の会場にブースを出すようになった。闇バイトの勧誘への注意喚起や交通ルールに関するパンフレットを配るなどしている。

 バーさんは日本人チームとの試合を来年開催したいと考えている。「サッカー大会を通してベトナムと日本がもっと交流を深められたらうれしい」と話した。

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 厚生労働省によると、ベトナム人労働者の数は約51万8千人(23年10月末時点)で、日本で暮らす外国人労働者の中で最も多い。

 その受け入れをめぐっては、発展途上国への技術移転を掲げたこれまでの「技能実習」制度を廃止し、人材確保を目的とした新たな制度「育成就労」を創設する改正入管難民法が6月に成立した。

 外国人労働者を取り巻く環境が変わろうとしている今、日本で働き、日本で生きるベトナム人たちの姿を追った。(平山亜理、内田光)

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この記事を書いた人
平山亜理
ネットワーク報道本部|武蔵野地区担当

移民・難民 外国人 多文化共生 南米

内田光
映像報道部

写真、映像

連載TOKYOベトナム人物語(全6回)

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