第20回傷ついた兵士は、なぜ我が子を殴るのか トラウマ学の第一人者に聞く

有料記事戦争トラウマ 連鎖する心の傷

聞き手・後藤遼太

 戦争で心に傷を負った兵士が、帰国後に自分の子どもに暴力を振るい、幼い心を傷つける――。暴力の連鎖は、戦争トラウマ問題の核心です。なぜ、トラウマは世代を超えて伝わってしまうのか、トラウマ研究の第一人者の森茂起(しげゆき)・甲南大名誉教授(臨床心理学)に聞きました。

 ――戦場で暴力にさらされた兵士たちは、どうして家族など他者に暴力を振るうようになってしまうのでしょうか。

 簡単に言えば、防衛本能です。「ピリピリして怒りっぽい」状態の方が、戦場で生き延びられる可能性が高まるからです。

 戦争や災害、犯罪など、生命が脅かされるような出来事によって引き起こされた心的後遺症が、PTSD(心的外傷後ストレス障害)です。PTSDの主な症状の一つに、「過覚醒」があります。

 過覚醒状態の時、人は感覚が研ぎ澄まされ、緊張が続いてピリピリしています。次のショックを警戒して身構えている状態と理解できます。危機的な状況で動物が示す「闘争・逃走」反応です。

 戦場にいる間は、過覚醒の方が生き延びる可能性が高い。自分を脅かすものを攻撃し破壊するか、それとも逃げるか。いずれにせよ最大限に覚醒する必要があります。

 PTSDは、危機が去ってもこの反応から抜け出せなくなっている状態です。いら立ちから暴力が発生すれば、DVや虐待につながります。更に、鎮静剤として酒や薬物に頼る人も、多くいます。

■「愛着」の障害を引き起こす…

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この記事を書いた人
後藤遼太
東京社会部|五輪・平和担当
専門・関心分野
平和、戦争、憲法、日本近現代史
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    平尾剛
    (スポーツ教育学者・元ラグビー日本代表)
    2024年6月15日11時0分 投稿
    【視点】

    戦争トラウマがいまの社会に根強く影響を与え続けている。この記事を読み、それを思い知りました。あまりに壮大な見立てに思わずたじろいてしまいますが、戦争トラウマがDVや虐待を引き起こす原因になっているということから考えると、いまを生きる私たちが

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