コロナ禍、矢面に立った尾身茂さん 政治リーダーに求める「語る力」

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嶋田圭一郎

 「つらかったのは、どんなとき?」

 エッセイストの阿川佐和子さんから、そう尋ねられた尾身茂さん。2020年の新型コロナ禍以降、専門家として感染防止対策に奮闘した。政府の諮問・助言組織の委員として政治家や官僚と渡り合った。連日の会見では、政府に代わり国民への説明に尽力した。その尾身さんの答えとは――。

 5月16日、尾身さんは愛知県犬山市の博物館明治村であったトークイベントに、「村長」である阿川さんらと登場すると、歯にきぬ着せぬ「尾身節」で会場を沸かせた。危機下の政治家への期待も語った。一部を要約し、紹介する(敬称略)。

「コロナはゼロにはならない」

 阿川「尾身さんをテレビで見なくなった。コロナも心配するような感染症じゃなくなった?」

 尾身「いまは10波か、数えていないから分からないが。死者数は、8波(2022年10月~23年4月)の山と比べると、1波(20年1~6月)は見えないほど少なかった」

 阿川「最初は感染したら死ぬんじゃないかと」

 尾身「致死率が高かった。(6波の)オミクロン株で下がったが、死者数はガーンと増えた。ほとんど死なないから普通の病気じゃないか、という考え方もあるが、私はそうは思いません」

 《国の人口動態統計によると、コロナの死者数は20年3466人、21年1万6766人、22年4万7638人で、23年も1~11月に計3万6146人。この間のインフルエンザの死者数は20年の956人が最多だ》

 尾身「死者数は増えたが、緊急事態宣言は出していない。じゃあ1波は少なかったのに、なぜ出したか。それは医療が逼迫(ひっぱく)しそうだから。感染者を診る病院が限られ、ワクチンもなかった。コロナは形を変え、当分続く。ゼロにはならない」

「早く言わないと大変なことに…」

 阿川「3人の総理(安倍晋三菅義偉岸田文雄の各氏)に進言していた。言いたいことが山のようにあっても、我慢していたのでは。本当につらかったのは、どんなときでしたか。政治家や官僚と闘って、悔しい思い、頭にくることもあったのでは」

 尾身「何回かありました。私がなぜ、こんなにテレビに出たのか。それが今回の対策を理解する上でのケーススタディーです」

 《政府は20年1~2月、乗客にコロナ感染が広がったクルーズ船の対応に追われ、国内感染への対応が遅れた》

 尾身「我々は各国の専門家か…

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