第7回ブタからヒトへ異種移植の「世界競争」 この盛り上がりは「本物」か

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A-storeis 「世界競争」の始まり(3)

 ブタからヒトへの「異種移植」の実現にむけて動いているのは、米国や日本だけではない。「国際競争」は、すでに始まっている。

 2018年に設立された中国・四川省のバイオ企業Clonorgan(クローンオーガン)。創設者の潘登科によると、500頭の遺伝子改変ブタの飼育施設が完成していて、年内に正式稼働するという。

 中国の海南医学院移植研究所教授の原秀孝は「中国でも、異種移植の研究と臨床応用への関心は、非常に高まっている」と、手応えを感じている。

 原によると、同社の飼育施設の維持には年間で数億円が必要だが、日本の都道府県にあたる省や市、中国内の投資家からの支援が入っているという。

 今年3月には、中国の空軍軍医大学西京医院が、脳死者に遺伝子改変ブタの肝臓を移植して一定の機能をはたしたと報告した。重度の熱傷(やけど)患者に対し、遺伝子改変ブタの皮膚が移植される研究がおこなわれたこともある。

 原らのグループでも、サルへの腎移植の研究を進めているという。同社の遺伝子改変ブタの腎臓を使う。

 外傷などで大量の血液が必要な患者のために、遺伝子改変ブタの赤血球を輸血する臨床研究もめざす。その準備として、脳死者へのブタ赤血球の輸血試験を25年までにおこなうことを計画している。

 原は04年に広島大大学院で医学博士号を取得。大学院での研究テーマが異種移植だったという。

 同年、先進的な研究環境を求めて米国へ。米ピッツバーグ大スターツル移植研究所助教や米アラバマ大バーミングハム校の准教授を歴任した。

 22年に中国に渡った。その後、異種移植にむけた研究に携わってほしいと海南医科大に招かれ、現在に至る。

米国が認めれば中国も

 中国にも、異種移植に関する具体的な規制はまだない。何をやってはいけないか明確ではないことが、逆にいまのところ、研究者が思い切ったことをしない歯止めのようになっている面があるという。

 異種移植の研究は米国が最先端を走っていて、原は「中国が世界に先駆けて、異種移植の臨床応用(ヒトへの移植)をはじめる可能性は低い」とみている。

 ただし、「中国のトップダウンの性質から考えると、米国が正式に異種移植を認めるようになれば、迅速にそれに続くことも考えられる」と予測する。

     ◇

 韓国でも、異種移植の実現にむけた取り組みが活発化している。

 韓国のヘルスケアに関する電子メディア「コリア・バイオメディカル・レビュー」によると、韓国のバイオ企業Optipharm(オプティファーム)の最高経営責任者が23年8月、ブタからヒトへの異種移植の臨床試験を24年末にも開始する予定だと明かした。

 韓国で開かれた国際会議での発言を報じたものだ。

 記事によると、韓国の国防省が同社に、遺伝子改変ブタを使った輸血用赤血球の開発のためとして、7年で1450万ドル(約22億5千万円)の研究費を拠出するなど、大きな関心が寄せられているという。

 欧州でも動きがある。

 ドイツでは12年から、異種移植の実現をめざす共同研究プロジェクト「TRR127」が進められてきた。ドイツ国内の12の大学、研究機関などで構成され、ブタからヒトへの膵島(すいとう)や心臓の弁、心臓そのものの異種移植が目標とされた。

 プロジェクトは24年夏で終了するが、代表の一人でルートビヒ・マクシミリアン大(LMU)教授のエックハルド・ウォルフによると、これまでの研究の蓄積を生かし、心臓移植に注力した新しい研究プロジェクトに移行する。

100年「隔絶」のブタを使用

 明治大から06年にドイツに渡り、遺伝子改変ブタの研究を続けてきたLMU研究員の黒目麻由子によると、ドイツの特徴は、「オークランドブタ」という種類のブタを使っている点にある。

 このブタが生まれた経緯は特殊だ。

 ニュージーランド王立協会の…

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