2カ月で3度の逮捕、身寄りない70代 優しかった男性に起きた異変

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伊藤未来
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 その男性は2023年の夏、2カ月間で3度逮捕された。

 福岡県内で一人暮らしをする70代。両親は他界し、兄弟とは絶縁状態だった。

 最初の事件は7月末。

 男性は当時住んでいた部屋から2.5キロほど離れたところにある、以前住んでいたアパートの大家の自宅前で、「燃やしてしまえばいいんやろ」などと迫った。脅迫の疑いで現行犯逮捕された。

 8月下旬には、自身が乗ったタクシーの運賃2030円を支払わず、詐欺容疑で現行犯逮捕。

 さらに1カ月後の9月下旬。再び大家の自宅周辺をうろつき、つきまとうなどして、県迷惑行為防止条例違反の疑いで現行犯逮捕された。2度目の逮捕後に釈放された翌日のことだった。

 3回とも不起訴処分となって釈放されたが、男性はなぜそんな状態に陥っていたのか。県警や男性を支援していたNPO法人、近所の住民などへの取材から、男性の足取りをたどった。

 20年ほどを過ごしたアパートから男性が転居したのは、老朽化して取り壊しが決まったためだった。部屋を離れることに応じた男性の心身に、少しずつ異変が起き始めていた。

 男性は、アパートを出て有料老人ホームに入居したが、施設の規則を守らずスタッフに刃物を向け、退去を余儀なくされた。

消えないアパートへの思い やがて周囲とのトラブルが…

 ほどなく、困窮者支援のNP…

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    西岡研介
    (ノンフィクションライター)
    2024年5月14日18時35分 投稿
    【視点】

    記事を読んで、この〈男性〉よりもむしろ、彼を支えようとしていた〈困窮者支援のNPO〉職員のほうが気になった。 「本当はいけないのかもしれないけど……。悲しい半面、ほっとする」 認知症の高齢者の家族や、支援する人たちなら、大なり小なり抱いたこ

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    清川卓史
    (朝日新聞編集委員=社会保障、貧困など)
    2024年5月12日18時20分 投稿
    【視点】

     身寄りのない高齢の人が、本人も自覚がないままで認知症となり、次第にその症状が進んでいく。記事で伝えられているようなケースは今後さらに増えていくのだろうと思います。  早期に異変に気づく可能性があるのは、その人の生活圏にいる人たちだと思いま

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