済州島のいまとむかし、詩と響き合う 過去の惨劇にじみ出る写真集

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中野晃
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 無心でシャッターを切った風景が、詩の言葉となじんだ。韓国の風土を半世紀余り撮影している写真家の藤本巧さん(74)が済州島の今と昔の風景を写真集にまとめた。済州島出身の在日詩人、金時鐘(キムシジョン)さん(95)の詩にあう写真を選んだ。

 写真集のタイトルは「金時鐘詩篇の風景」。昨年、同じ奈良県生駒市に住み、交流のある金さんの帰郷に同行したことが制作のきっかけになった。

 出発を前に金さんの詩集をひもとくと、行間からむかし済州島で撮った風景が眼前に浮かび上がってきた。

 藤本さんは1970年代から韓国の田舎や民衆の暮らしに魅せられて写真を撮り、日韓双方で写真集を出したり、展覧会を開いたりしてきた。在日コリアン大勢暮らす大阪市生野区の「猪飼野(いかいの)」にも通った。キムチなどの食材を扱う商店街や朝鮮寺、ヘップサンダルなどの町工場、民族文化祭の様子を撮影した。かいわいで長年暮らすハラボジ(おじいさん)、ハルモニ(おばあさん)に話を聞くと、故郷が済州島という人が多かった。島の風習を重んじ、島を生んだ火山、漢拏山(ハルラサン)の美しさを懐かしんでは故郷を慕っていた。

 済州島を抜きにしては猪飼野を深く理解できないと、87~88年に何度か島へ渡った。

 海藻類を背に陸にあがる日焼…

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