34年ぶりボクシング開催の東京ドームで、スポーツ賭博広告が消えた

塩谷耕吾

 ゴールデンウィーク最終日の6日。井上尚弥らのファイトを見るために、主催者発表で4万3千人が東京ドームにつめかけた。配信したアマゾンプライムビデオの児玉隆志カントリーマネジャーは、このイベントを「国民的行事」と呼んだ。

 このビッグイベントの前に、スポーツ行政当局はある危機感を募らせていたが、杞憂(きゆう)に終わった。

 最近のプロボクシング興行で何度も掲出されていたスポーツ賭博を扱う業者の広告が、このイベントでは姿を消したのだ。

 この業者は海外に拠点をもち、インターネットを通じてボクシングや野球、サッカー、バスケットなどスポーツの勝敗などに賭けることができるサイトを運営している。警察庁は「一般論として、賭博行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法第185条の賭博罪が成立することがあるものと認識している」としている。

 同庁によると、オンラインカジノにかかわる賭博事犯は、2023年に13件107人が検挙されている。日本国内からこのサイトを通じて勝敗などを賭けた場合、違法となる可能性がある。

 今年3月には、米大リーグの大谷翔平の水原一平・元通訳(銀行詐欺容疑で訴追)が違法なスポーツ賭博に手を染めていたことが発覚。日米で騒動となっていた。

 4月中旬、スポーツ庁は、スポーツ賭博を扱う業者がボクシング興行や、選手個人のスポンサーをしている現状について、日本ボクシングコミッション(JBC)に聞き取りを行った。

 同庁担当者は、「賭博事業者がスポンサードすることで、選手が賭博幇助(ほうじょ)につながることがあってはならない。『ボクシング界としてのインティグリティー(誠実さ、高潔さ)の保護、コンプライアンス対策を説明できるようにしてほしい』と伝えた」と話す。選手が賭博の胴元から収益を得て、賭けの成立を手助けする構図を危惧しているという。

 ただ、複数の関係者によると、「水原ショック」よりも前の段階で、井上尚サイドは今回のイベントでの同種の広告掲出にNGを出していたという。

 時に血が流れるボクシングはかつて、「堅い」大企業の協賛を得ることが難しかった。だが、この試合のリングには、NTTドコモやみずほ銀行など、大企業のロゴが並んだ。

 井上尚のクリーンさ、高潔さが、荒々しいボクシングのイメージを変えた。

 家族を大切にし、リングの外で相手に高圧的な態度を取ることもなく、強さと結果だけで人気を高めた。試合後はたいてい、きれいな顔でリングを下りた。日本スポーツ界のロールモデルになりつつある井上尚の陣営は今回、そのイメージを自分たちで守ったことになる。

 モンスター人気で、かつてない活況を呈す日本ボクシング界もイメージは大切だ。

 JBCの関係者は「今後、何らかの対策が必要かもしれない」と話す。(塩谷耕吾)…

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