子ども虐待 「親のこころの深いケガ」のケアが再発防止のカギ

有料記事ウェルビーイング・働き方

精神科医・亀岡智美=寄稿
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Re:Ron連載「こころがケガをするということ」第11回

 こころのケガからの回復を考える時、誰かにこころのケガをさせてしまった人への支援も忘れてはならない。そこで今回は、子ども虐待が起きる家庭への、養育者支援の在り方について考えたい。

 このところ、虐待による子どもの痛ましい事件が起こるたびに、養育者支援の方策が検討され、強化していこうという動きが加速している。2022年の児童福祉法等改正法によって、親子再統合支援事業が都道府県などの事業に規定された。親子再統合支援とは、親子関係再構築支援であり、「こどもと親がその相互の肯定的なつながりを主体的に築いていけるよう、虐待をはじめとする養育上の問題や課題に直面している家庭の親子関係の修復や再構築に取り組むこと」とされている。その中で、児童相談所(児相)、市町村、施設などの関係機関・民間団体など多様な主体が協働して、重層的、複合的、継続的な支援を推進することになっている。

 この事業は、24年度からさらに強化される予定だが、これが一筋縄ではいかない。傷んだ建物を修復するには、更地に新築物件を建てるよりも多くの知恵と技術が求められるのだ。

 養育者支援の一つの在り方として、日本でも、虐待が起きる家庭への養育者支援プログラムがいくつか実践されるようになった。いずれも、適切な子育てをするために、養育者の行動変容を目的とするものである。しかし、それが養育者への適切な支援に結び付いていないことが指摘されている。そもそも、養育者支援プログラムの普及度はまだそれほど高くなく、全国の児相のうち、専門的な支援プログラムを提供できるのは5%以下であり、児相が対応する虐待ケースの養育者のうち、約3%しかプログラムを受講していないという政策基礎研究所の報告もある(18年)。

見えてきた課題 「虐待の再発」

 その要因として、もちろん提供側のマンパワーや資金の不足、司法の枠組みで受講を命令する制度がないことが挙げられているが、養育者側の問題も含めた複合的な要因も大きく影響していると考えられている。ここでは、18年に実施された「児童相談所の実態に関する調査」をひもといてみよう。この調査は、同年5月のある2週間に、全国の児相に虐待の恐れありと通告されたすべてのケースを調査したものである。

 まずこの2週間に児相が受理したケースのうち、実際に虐待ありと判断されたケースは77%だった。本シリーズの第5回で取り上げた、児相の児童虐待相談対応件数のうち、真の虐待件数はこの程度に割り引かれるかもしれない。

 2週間の受理ケースのうち、新規ケースは約6割で、残りの4割は、以前に虐待などの理由で受理経験があるケースだった。ということは、児相がいったん終結したケースが再び事例化する、つまり、虐待が再発するケースが無視できないほど存在するということだ。調査時点で、「虐待は止まり再発可能性が低い」と判断されているケースが約5割、援助方針を決定し終結したケースが約7割(うち6割は問題解決、約3割は他機関に引き継ぎ)とされているのだが、どのような科学的根拠に従って判断されているのか、あるいは、終結したケースの虐待再発率はどの程度あるのかはわからない。

 児相は、子どもや養育者との面接、医療機関や他の支援機関の紹介、生活保護や保育所につなぐ支援など、さまざまなサービスを提供している。その結果、受理時点で、虐待を認め援助を求める養育者は約2割だが、調査時点では、虐待者の約7割が支援に応じる姿勢を示しており、約8割以上で虐待がいったん停止していると判断されている。この結果は、児相の危機介入の成果だといえる。しかし、いったん虐待が止まっても約4割は再発の恐れがあると判断されており、介入や支援を受け入れないケースも約1割あった。全体として、養育状況が変わらない、あるいは、むしろ悪化したケースが約4分の1あった。

親子関係の修復 「親へのケア」がキー

 これらのデータから、今後は現存の対応方法では支援が難しいケース、つまり、さまざまな介入によっても虐待の再発を食い止められないケースや、介入や支援を受け入れないケースにどのように対応していくかが課題であることがわかる。親子関係を修復し再構築するためには、養育者の子育て方法を、虐待的なものから健康的で安全なやり方に変換してもらう必要がある。そのためには、子育て方法を変えたいという養育者自身の動機づけを高め、支援者との協働関係を築いてもらうことが不可欠だ。

 しかし、これが案外難しい…

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