古今和歌集の注釈書、藤原定家自筆の原本 専門家「国宝級の発見」

西崎啓太朗
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 国内初の勅撰(ちょくせん)和歌集「古今和歌集」の代表的な注釈書で、鎌倉時代初期の歌人、藤原定家(ていか)(1162~1241)自筆の「顕注密勘(けんちゅうみっかん)」が、京都・冷泉家(れいぜいけ)で見つかった。冷泉家時雨亭(しぐれてい)文庫が18日発表した。写本は重要文化財に指定されたものなど複数あるが、原本は失われたとされていた。専門家は「国宝級の発見」と評価する。

 見つかった顕注密勘は上中下の3冊。いずれも縦約18センチ、横約17センチ。定家の自筆は中と下で、推敲(すいこう)の跡や考えを記した貼り紙も残されていた。下の巻末には、承久3(1221)年に書かれたと記される。調査した大学教授ら複数の専門家が、筆跡や花押(サイン)、紙質などから定家の自筆と判断した。上は南北朝時代の当主が書いた写しで、原本は火事で失われたらしい。

 定家を遠祖とする冷泉家は、代々宮中で和歌を教えてきた家柄。歴代当主らは顕注密勘で和歌を学んだという。江戸時代以降、関係する書物を箱に入れて蔵で保管してきたが、約130年の間、開けていなかった。1980年から膨大な収蔵品の調査が続いており、2022年秋から箱を調べていた。(西崎啓太朗)

「原本にかなうものない。国宝に値する」

 久保田淳・東大名誉教授(和歌文学)の話 顕注密勘の写本がいくら残っていても原本にかなうものはない。推敲の跡が生々しく残り、定家の古典への考え方を正確にたどれる。古今和歌集に向き合った姿勢もひしひしと伝わってくる。写本と比べようもない力を持ち、非常に価値が高い。国宝に値する。多くの人が簡単に見られるような形で早く公開してほしい。

古今和歌集とは

 古今和歌集 平安前期の905(延喜5)年ごろに醍醐天皇の命を受け、紀貫之(きのつらゆき)らが撰(えら)んだ最初の勅撰(ちょくせん)和歌集。四季折々の風景や離別、恋愛などを詠んだ約1100首が収められる。全20巻。貴族の教養の基礎として重んじられた。

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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2024年4月18日19時33分 投稿
    【視点】

    定家自筆の古今和歌集の注釈書の発見とは、大事件だ。いずれ一般公開を実施していただけることになれば、古今和歌集の世界を身近に感じられそうだ。古筆は、読むだけでなく見て楽しめる。

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    今井邦彦
    (朝日新聞記者=歴史、考古学)
    2024年4月18日19時41分 投稿
    【視点】

    驚きました。冷泉家は京都の「タイムカプセル」のような家なのですが、それでもこれだけ貴重な歌書が、これまで見つからずに保存されていたとは。 冷泉家は、明治維新で多くの公家が東京へ移る中、京都御所のすぐ近くにとどまって、先祖伝来の歌集や歌論書

    …続きを読む