知の巨人・富岡鉄斎の足跡たどる 大和文華館で没後100年の企画展
和漢の古典に親しみ「日本最後の文人」とも呼ばれた富岡鉄斎(とみおかてっさい)(1836~1924)を回顧する「没後100年 富岡鉄斎―知の巨人の足跡―」展が奈良市の大和文華館(学園南1丁目)で開かれている。
京都の法衣商の家に生まれた鉄斎は、儒学や国学、仏教などを広く学びながら、南宗画、やまと絵など多様な絵画技法を独学で身につけた。その大胆な構図や墨技、色彩鮮やかな絵画は高く評価され、1917年には画家としての最高の栄誉とされた帝室技芸員となった。
今回展示されているのは52点。「蘇子笠屐図(そしりゅうげきず)」は鉄斎が敬愛した北宋時代の文人・蘇軾(そしょく)を描いたもの。どこかユーモラスなひょうひょうとした姿は、雨に降られ、農家でげた(屐)と笠を借りて歩く姿を笑われた、という故事から。鉄斎はこうした画題の出典を「賛(さん)」(余白に書いた文章)として添えたのが特徴で、「わしの画を見るなら、まず賛を読んでくれ」と述べていたという。
「出山釈迦図」は悟りを開けず失意のうちにある釈迦の姿で、鉄斎は早世した息子の追善に描いた作品にもこのモチーフを用いた。「寿老図」の表情は鉄斎に似て、自画像とも考えられている。また、辛亥(しんがい)革命を逃れて日本に亡命した中国の学者、羅振玉と交流を重ね、展示には2人の合作による作品も並ぶ。
人物や山水など文人らしい作品が並ぶ中でとりわけ印象的なのは、親交のあった知人に送った礼状だ。海産物のお礼に鉄斎が送った「鮮魚図」には、生きのよいマトウダイなどがのびのびと描かれ、大家の気取らない素顔と自由な精神性をうかがわせる。
5月19日まで。4月29日、5月6日を除く月曜日と、4月30日、5月7日は休館。一般630円など。4月28日午後2時からは担当学芸員都甲さやかさんが講演、5月12日午後2時からは清荒神清澄寺鉄斎美術館の元学芸員奥田素子さんが講演する。いずれも先着定員100人。問い合わせは大和文華館(0742・45・0544)へ。