第2回「事業承継」直後から資金流出1億円超、1年で倒産 M&A仲介の罠

有料記事M&A仲介の罠

藤田知也

 3月15日、東京都府中市。創業53年の設計会社が営業最終日を迎えた。

 30人余りの従業員が働いた事業所で、他社に譲り渡す3Dプリンターやパソコンが運び出された。廃棄するオフィス用品や紙くずの山から、創業者の男性(78)が1枚の紙を拾い上げた。従業員みんなで遊んだボウリング大会の成績表だ。「懐かしいなぁ、これ。アットホームな会社だったのに」。目に涙がにじむ。

 夕方に一人、また一人と去っていく従業員に、「ご苦労さん」と声をかける。最後にひとりでガチャッと鍵をかけ、会社の幕は静かに下ろされた。

 M&A仲介業者に勧められた事業承継の契約から、倒産を決めるまで1年もかからなかった。

うたい文句は「従業員を守る」

 機器を設計し、試作品もつく…

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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2024年5月8日13時30分 投稿
    【視点】

    教育・研究活動で連携している建設会社の方が、その方が働いておられる会社のM&Aの経験にも触れながら、慢性的に人手が不足しているような中小企業で後継者難を理由とする廃業や将来への悲観から承継をあきらめるといった望まない廃業がますます増えている

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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2024年5月14日20時32分 投稿
    【視点】

    SSさんから、メッセージ(※)を拝受しました。 (※) 中小企業の経営者は大会社のサラリーマン社長や投資家とは決定的に違い全ての責任を一身に負い、経営は経営者の生き方であり人生そのものです。人の人生を簡単に数字に変え売ったり買ったりして利

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