プクプクと水が湧き出る音が聞こえてくる。
「元の我が家には井戸があってね。見えなくてもここだったとわかる」
岩手県大槌町の海沿いの空き地で、全盲の藤原正さん(66)が説明してくれた。
地震発生時刻の3月11日午後2時46分。藤原さんは毎年、営んでいる鍼灸(しんきゅう)院で客の予約が入っていない限りはここで手を合わせる。震災後、津波の危険区域に指定され、放置されている場所だ。
跡地には今も、家を囲んでいたコンクリートブロックが残る。当時はブロックの外側に側溝があり、その側溝が、藤原さんを救うきっかけになった。
13年前の同じ時刻、藤原さんは自宅で施術を終えた客を送り出し、音読された録音図書を聞いていた。
大きな揺れに襲われ、診療台の横にしゃがみこんだ。それでも、高さ6・4メートルの防潮堤が近くにあり、「津波が来ても大丈夫では」と避難することをためらった。
「側溝に水がないっけ(ないよ)」。中学校から帰宅していた三女の美代乃さん(26)が声を上げた。
その一言で決断した。藤原さ…