あの朝もあなたの歌を… 朝日歌壇の長尾幹也さん、追悼の歌途切れず

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佐々波幸子
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 朝日歌壇に半世紀近く投稿を続けた大阪府和泉市の長尾幹也さんが1月末、66歳で亡くなった。それから2カ月余、長尾さんの歌を長年愛読してきた読者から、追悼の歌や言葉が途切れることなく寄せられている。勤め人のつらさや闘病の日々を詠んだ歌への共感、それがもう読めない寂しさ……。その数は60通を超えた。

 「生きるとは」歌で示しし長尾氏の辞世となりぬ視線入力

 4月7日付の朝日歌壇に掲載された埼玉県蓮田市の斎藤哲哉さん(89)による一首。長尾さんの最後の歌となった、1月7日付掲載のこの歌を踏まえて詠んだものだ。

 妻は泣きわれは視線に文字を打つ午後の病室蝶も鳩も来ず

 長尾さんは62歳の時に多系統萎縮症と診断された。手足の動きの調節や平衡感覚などをつかさどる小脳を病み、歩行機能などが低下していく難病で、近年は闘病が主なテーマとなった。約30年間、読者として長尾さんの歌を読み続けてきた斎藤さんは「難病を患いながらも歌から離れなかった。長尾さんの生きる力、歌の力はすごいものだとつくづく思った」と話す。

【4/26開催】記者サロン「木下龍也さん×AI短歌 あなたのために詠む短歌」

 依頼者からのお題をもとに短歌を作ってきた気鋭の歌人・木下龍也さんを迎え、朝日新聞社が作った短歌AIを使いながら、同じお題で木下さんとAIが詠む歌はどう違うのか、人が歌を詠むとはどういうことか、語り合います。

 悲しみとともに開かむ彼の歌載ることのなき日曜の紙面

 同じく7日付朝日歌壇に追悼歌が掲載された同県朝霞市の岩部博道さん(56)は「病や死と向き合いながら、ユーモアや静謐(せいひつ)な心境を感じさせる歌を詠んでいることに感嘆していた」と振り返る。記憶に残る長尾さんの歌として挙げたのは次の2首だ。

 椅子もろともリフトに吊られ…

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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2024年4月11日10時50分 投稿
    【視点】

    こんな歌も。 「人生は仕事と遊び」と言う人ありそのいずれにも属さぬ短歌  長尾幹也 “仕事でもない、遊びでもない”短歌によるひとつの生き方の表現だと思った。“仕事か遊びか”ではなく、自分らしく豊かに生きるための。

    …続きを読む