第1回「この子の体、何かがあるよ」 ペンを持てない子が東大に受かるまで

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 小さな異変からだった。

 千葉県に住んでいた張香理(チャンヒャンリ)さん(52)は大学を卒業したばかりの23歳で結婚。25歳で第1子の長男を出産した。

 ニコニコとよく笑う赤ちゃんだった。成長するにつれて、少しずつ気になることが増えていった。半年が経っても首がすわらず、寝返りも打たない。足をバタバタと動かすこともなかった。

 香理さんは、顔をじっと見つめた。「どこかで、成長が遅れちゃったのかなあ」。生後1カ月や半年の定期健診では、病気や異常は見つかっていなかった。

 10カ月の定期検診。担当医師の様子がおかしい。慌てたように、告げられた。「この子の体、何かがあるよ」

抱っこしてベランダから…

 病院を次々に移り、大がかりな検査を重ねた。1歳5カ月の時に下された診断は「脊髄(せきずい)性筋萎縮症(SMA)」。生まれつき遺伝子に変異があり、手足が動かなくなるなど筋肉が萎縮していく国指定の難病だ。新生児2万人に1人が患者になるとされ、当時は治療方法もなかった。

 香理さんは頭が真っ白になった。医師から病気について説明を聞いたとき、とっさに言葉が出た。「この子は将来、学校に行けますか?」

 返ってきた言葉は残酷だった…

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    宮坂麻子
    (朝日新聞編集委員=教育、子ども)
    2024年4月12日12時17分 投稿
    【視点】

    この4月から、改正障害者差別解消法が施行され、障がい者への「合理的配慮」の義務化が話題になっている。だが、「合理的配慮」という言葉が軽く感じられてしまうほど、愼允翼さんの生き方はアグレッシブで、それでいて人として自然で、魅力的でもある。

    …続きを読む