住宅解体、明かりがつく家 駐在員が見た避難指示解除

滝口信之
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 福島県浪江町の帰還困難区域の一部で避難指示が解除されて31日で1年となる。その一つ、室原地区ではこの間、一人の駐在員が地域に溶け込みながら、少しずつ戻ってきた人々の営みを感じている。

 「在宅していない家の庭に足跡があったんです」

 雪が積もった3月上旬、双葉署室原駐在所の小針龍介・巡査部長(27)はパトロールを終え、駐在所に戻ると、家の主に電話を掛けた。物色されるなどの被害は確認されなかったが、「小さな変化でも、住民の方には伝えるようにしています」。

 天栄村の実家近くに駐在所があり、駐在員がよく実家に立ち寄ってくれた。その人に誘われ警察官になった。

 最初に赴任したいわき南署管内には原発事故双葉町などから避難していた人が多くいた。「残してきた自宅が心配だ」「家が空き巣の被害に遭った」という話をよく聞いた。「避難者の心を踏みにじるのは許せない」。話を聞くたびに思いは強まり、双葉郡内での勤務を希望した。

 2022年に双葉署浪江分庁舎勤務になり、当時は避難指示が出ていて人が住めなかった室原地区の担当に。バリケードで封鎖された地区はパトロールをしても人の気配を感じられず、バリケード外でさえ、すれ違う車がない日もあった。

 避難指示の解除に伴い、昨年3月30日に地区内の駐在所が再開されると聞くと、小針さんは真っ先に勤務を希望。同31日から、駐在所に住みながら勤務を始めた。1軒1軒訪ね歩くパトロールでは、住民が住んでいる家の地図には丸をつけ、要望や心配事に耳を傾ける。住民からは「県外ナンバーの車が家の前に止まっていた」「パトロールの頻度を増やしてほしい」などの声が寄せられる。

 町によると、室原地区で暮らすのは、2月末時点で7世帯10人だ。

 震災前は住民がいたため、不審者がいれば通報があった。今は住んでいる人が少なく、不審者がいても通報が来ない。バリケードも取り外されたため、人が自由に出入りすることができるようになり、小針さんは「犯罪が起こりやすい環境になっている」と話す。

 1年間生活し、風景も変わってきた。解除当初に残っていた老朽化した住宅は解体されてゆき、草木が生い茂る空き地が目立つようになってきた。その光景を見るたびに「ここで生活していた人は寂しいのではないだろうか」と心を痛める。

 一方で、夜のパトロールをすると、明かりがともる家が増えてきたと感じる。「少しずつではあるけど、復興は進んでいるのかな」

 「いつもありがとう」「家に上がってお茶飲んでいきな」と声を掛けられることも増えてきた。住民と触れ合う機会を増やすため、週末を使い、住民と一緒に地区の清掃をしたり、野球の練習に混ぜてもらったりしている。

 「地域の治安を守るには、住民の人との協力が不可欠。住んでいる人はもちろん、避難を続けている人、残された家の安全も守っていきたい」(滝口信之)

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