東畑開人さんの「社会季評」
年度末を前に思う。学校から未来が消えつつある。少子化で子どもが減っているという話ではない。人口は少なくなっても、ひとりひとりの子どもの未来は消えないし、減りもしない。学校が子どもの未来を育てる場所であることは揺るがない。
消えつつあるのは未来を育てる人の未来だ。そう思ったのには、二つの年度末的な理由がある。一つは東京都の全公立小中高校にいるスクールカウンセラー(以下SC)の、大量雇い止め報道だ。SCは元来1年契約の非正規公務員ではあったが、それでも業務実績に応じてそれなりに順当に再任用されてきた。しかし、2020年度から導入された会計年度任用職員という新たな人事制度の結果、今年度末に異例の数の雇い止めが生じていて、その中には現場からの評価がよかった熟練のSCも多く含まれているという。
もう一つは、私立学校の教師たちの研修会に呼ばれて、若手中堅の教師たちと話をしたことだ。聞けば、彼らの少なくない数が1年任期で働いていて、「先のことはわからない、目の前のことを一生懸命やるだけ」と切実に語っていた。休日に研修会に参加するような熱心な教師たちが、未来が見えないまま、現在だけに視野を限定して働いている。もちろん、公立学校でも同じような問題が起きている。
教育現場が非正規雇用で満ち満ちている。年度末より先に、誰が学校にいるのかわからない。問題となっているのは1年後、つまり「近未来」だ。SCにせよ、教師にせよ、未来を育てる大人たちの近未来が失われている。
大前提として、SCや教師がコロコロと代わってしまうのは、子どもたちにとって不利益だ。学校にはたくさんの子どもたちがいる。彼らそれぞれの事情や個性を把握するのには時間がかかるし、そのうえで信頼を築くのにはさらに多くの時間が必要だ。つながりの確かさは、触れ合おうと苦慮した時間の総量と比例する。そうやって築かれた大人との関係性が、年度ごとにリセットされてしまうのは大きな損失と言わざるを得ない。
ただし、私がそれ以上に深刻…
- 【視点】
「子どもの不安を預かるために、大人の心は安定している必要がある」 臨床心理士で、数々の著書がある東畑開人氏のこのことばが胸に突き刺さる。表向きは明るくポジティブに振る舞っていても、心に不安があればそれは他者へと伝わってしまう。不安は、意志
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