世界遺産・石見銀山のある島根県大田市大森町は人口約400人。地域には今も古い町並みが残る。町内を通る一本道沿いに、松場大吉さん(70)、登美さん(74)夫妻は暮らす。
結婚して50年。「近距離別居」を始めて20年。今、互いの住まいは歩いて1分ほどの距離だ。
大吉さんは、夜に妻の家の前を通ると、明かりがついているのを確認する。そして思う。「今日も元気でやっているな」
登美さんは近距離別居を「いいことばかり」と話す。
幸せになるために、人生をともに歩むと決めたはず。でも、パートナーとの毎日が思い描いたものにならない人もいます。苦しみの原因は、改善策は。たくさんの「ふたりのかたち」を通して考えます。
2人は名古屋市のアパートに隣同士で住んでいたことが縁で結婚。7年後、大森町にある大吉さんの実家に移り住んだ。
2人はアパレルなどを手がけるブランド「群言堂(ぐんげんどう)」を起こした。大吉さんが代表を務め、登美さんはデザイナーとして働いた。3人の娘の子育てをほとんど担ったのは登美さんだ。
「遠慮せずに暮らしていて、知らないうちに登美さんに迷惑をかけていた」。大吉さんは振り返る。
「だったら1人で住んでみたい」
妻と一緒に買い物に行くと…