第3回接見室でおびえたような被告 矛盾だらけの自白、それでも無期懲役に

【動画】幸せからの転落 無罪訴え無念の死
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 駆け出しの弁護士だった山本啓二さん(67)は、ひどく緊張していた。

 1988年3月26日。弁護を担当する容疑者に初めて接見するため、滋賀県警の警察署を訪れた。強盗殺人の疑いで逮捕された、阪原弘(ひろむ)元被告(当時52)だ。

 法律事務所の所長からは、「やってもいないのに自白している」と聞いていた。

 80年代は死刑事件が次々と再審で無罪になった時代だ。免田事件、財田川(さいたがわ)事件、松山事件……。「自分もいつか冤罪(えんざい)事件を弁護してみたい」という漠とした思いがあった。

 だが実際に会った元被告の反応は、想像とあまりに違った。

接見室で見た「完全にやられた人間の姿」

 身を乗り出して無実を訴えると思っていたら、元被告は接見室に入ってくるなり背後の壁に体を預け、椅子から腰を浮かせたままこう言った。

 「帰ってくれ」

 目線も合わせないまま、「弁護なんかやめてくれ」「家族にも面会に来るなと言ってくれ」と繰り返した。自分が入って来たドアのほうをしきりに気にするそぶりもしていた。

 「完全にやられている人間の姿だ」

 そう思った。

 「事件から3年以上も犯行を隠し、ついに観念したという人の態度ではない。ドアの向こうにいるはずの刑事に、ただおびえているようにしか見えなかった」

 接見室を出ると、ため息が出た。

 何をすればいいのか。

 「真犯人でない者が仕方なく自白している」と裁判官にわかってもらうため、2回目の接見では、小型のテープレコーダーをかばんに忍ばせた。「生の供述」を記録しておくことが重要と考えたからだ。

「認めれば刑が1年で済む」

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 4月2日。同行した所長が「…

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    ダースレイダー
    (ラッパー)
    2024年3月22日11時5分 投稿
    【視点】

    日本の再審制度の高すぎるハードルを見直すべく議連も立ち上がりました。 この記事を読んでも感じるのは、捜査当局が一度犯人と決めたらとことんその線に固執してストーリーを無理筋でも作り上げていく様です。 なぜこうした事が起こるのか?の背景は色々あ

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