服さぬ者は消し去る ウクライナ侵攻に浮かぶ「プーチンの世界観」

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聞き手・中島鉄郎

 ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻以降、よく言及する「大祖国戦争」とは、第2次世界大戦でソ連がナチスドイツを打ち破った「独ソ戦」を指す。壮絶な絶滅戦争として知られるこの惨禍の経験は、クレムリンの世界観にどう影響しているのか。「独ソ戦」の著書がある現代史家の大木毅さんに聞いた。

おおき・たけし 1961年生まれ。千葉大学などの非常勤講師、防衛省防衛研究所講師などを経て著述業。著書に「独ソ戦」(新書大賞2020受賞)「戦史の余白」「勝敗の構造」など多数。

 ――プーチン政権はこの2年、第2次世界大戦で攻め込んできたナチスドイツを撃退して勝利した「独ソ戦」(1941~45)に、よく言及しています。

 「今回の戦争はどう見てもウクライナへの侵略戦争ですから、それを祖国防衛戦争に等値するという議論は荒唐無稽です。にもかかわらず、ロシア国民にはある程度の訴求力を持ちます。ナポレオン率いるフランス軍、といってもその実態はヨーロッパ諸国の軍隊を集めた多国籍軍だったのですが、それと戦った1812年戦役や、ロシア革命後に欧米の干渉で生じた戦争(1918~20)。そうした侵略を経験したロシアでは、欧州は隙を見せればすぐ襲いかかってくる、という被害者意識が根強いからです」

 「とりわけ約2700万人の死者を出した独ソ戦は『大祖国戦争』と呼ばれ、政権はその記憶をロシア国民に繰り返し想起させ、愛国心をあおってきました。旧ソ連崩壊後、超大国の座から転落したという屈辱も、ロシア国民の欧米観に影響しているでしょう」

 ――類のない陰惨な戦争だった独ソ戦について、著書で「世界観戦争」に発展したと分析されています。

 「『世界観』は、ドイツ語で…

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