第2回倒れた独居男性、家賃払えず家はごみの山…引き出せぬ預金1200万

有料記事身寄りなき最期と向きあう

土肥修一

 丘に囲まれた狭い谷あいに、軽自動車が通るのがやっとの細い道が続く。

 最寄りの鉄道駅から、歩いて20分ほど。

 「この木を切っているとき、脳梗塞(こうそく)を発症されたようなんです」

 市職員が、高さ5メートルほどありそうな道沿いの木を見上げた。その向こう、どれだけ長く人が住んでいないのか、朽ちた空き家が木々にのまれようとしているのが見える。

 関東地方の地方都市。

 2023年9月半ば、ここで男性が倒れ、市内の病院に搬送された。当時71歳。自宅アパートの前にある街路樹にはしごをかけ、剪定(せんてい)しているさなかだった。ボランティアでの作業だったとみられる。脳梗塞を起こし、4メートルほどの高さから転落した。

 意識はあった。目もあいていた。しかし、頭部も強く打っており、右半身がまひ。呼びかけなどには反応せず、当時から、意思の疎通ができる状態ではなかったという。

きょうだいは11人 しかし支援は…「できません」

 病院から市の福祉担当課に連絡が入ったのは、それから1週間ほどしてからだった。

 市によると、男性は一人暮らし。婚姻歴はなく、子どももいない。

 きょうだいは多かった。11人きょうだい。病院が、一番下の弟の連絡先を把握して電話を入れた。弟の住まいは、遠く九州だった。「もう40年ぐらい交流はない。遠いので支援はできません」。もう1人、本人と同じ県内に、姉の娘が住んでいた。彼女も、やはり「支援はできません」という回答だった。

 ここまで親族を探した結果、病院側は、男性には当面の支援を頼める人はいないと判断した。搬送時、男性は現金も貴重品も持っていなかった。そのため、その後の対応を相談するべく、市に連絡を入れてきたという。

 頼れる身寄りがいない一人暮らしの高齢者が倒れ、病院から相談が来ることは、この地方都市でもそれほど珍しいことではない。

 市はすぐに動き出した。

 職員が病院に面会に行った。やはり、目はあいているものの、反応がない。

 市職員と、地元の地域包括支援センターの職員ら数人で、男性の自宅アパートを見に行った。家賃は月2万5千円ほど。さびついた外階段で2階にあがる。たてつけが悪いドアの鍵は、かかっていなかった。

 ドアをあけ、息をのんだ。

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 入り口から奥の部屋へと、ひ…

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    清川卓史
    (朝日新聞編集委員=社会保障、貧困など)
    2024年3月5日14時43分 投稿
    【視点】

    成年後見制度には、後見人となった専門職の不正をはじめ、さまざまな課題や弊害が指摘され、利用が伸び悩んでいます。ただ、この記事の事例を読むと、頼れる身寄りがいない人が増える社会のなかで、必要な制度であることを改めて感じました。  家族にかわ

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