津波にのまれた幼稚園バス 避難の大切さ、絵本で子どもたちへ伝える

吉村美耶
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 東日本大震災の津波と火災で園児5人が犠牲になった宮城県石巻市の私立日和幼稚園の教訓を踏まえ、避難の大切さを子どもたちに伝える絵本が完成した。仙台白百合女子大(仙台市泉区)の学生ら8人が1年ほどかけて制作。仙台市内の児童館などに贈るほか、残りわずかだが、ネット販売も行っている。

 絵本は「2人の天使にあったボク」。主人公の小学生、海(かい)くんが地震におびえる中、あいりちゃん、はるねちゃんの2人の女の子に導かれて高台に避難するお話だ。日和幼稚園の遺族らの依頼を受け、子ども教育学科の学生が筋書きや作画に取り組んだ。

 制作中、学生は幼稚園の慰霊碑に足を運び、長女愛梨(あいり)さん(当時6)をなくした佐藤美香さん(49)や、春音(はるね)さん(当時6)を失った西城江津子さん(49)の話に耳を傾けた。

 愛梨さんらは乗っていた送迎バスごと津波にのまれた。地震の後、バスが高台にある幼稚園から海側に向かわなければ、死なずに済んだ。避難すること、海のそばへ戻らないことの大切さを、どうすれば子どもたちにわかってもらえるか。遺族と学生で議論を重ねた。

 幼稚園教諭や保育士を目指している日出山(ひでやま)希望さん(21)は、アルバイト先の児童館でこんなことがあったという。

 昨年3月、子どもたちに「もうすぐ震災の時期だね」と話しかけると、「何それ?生まれていないから知らない」と返ってきた。今の小学生たちはみな震災後生まれだ。「あんなに大きな災害のことを知らないのか」と衝撃を受けた。この経験から、絵本づくりへの参加を決めた。

 同大で今年3月、出来上がった絵本の読み聞かせがあった。日出山さんたちは「避難の大切さを子どもたちに伝えられる先生になりたい」と、口をそろえた。

 遺族の佐藤さんは「(亡くなった)娘たちも『自分たちと同じようになってほしくない』と、思っているでしょう」という。幼い子に理解してもらうには、絵本はとても有効な手段。加えて、愛梨さんと同世代の若者たちと制作することに意味があると考えた。「愛梨が生きていたら、この大学に通って友達になっていたかもしれない」

 学生たちは、いつか生まれてくる自分の子どもにも、きっと教訓を語り継いでくれる。そう信じている。(吉村美耶)

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