難病で亡くなった彼女、基金の名に 誰もが生きやすい社会へ遺志継ぎ

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葛谷晋吾

 2021年のクリスマスイブ、彼女は逝った。誰もが自分らしく生きることができるインクルーシブ(包摂的)な社会の実現を目指した女性だった。その思いをいま、仲間たちが引き継ぎ、動き続けている。

 海老原宏美さん。生まれつき、次第に筋肉が衰える脊髄(せきずい)性筋萎縮症(SMA)Ⅱ型という難病を患っていた。人工呼吸器を使い、24時間の介助を受け生活していた。

 テレビ出演や講演などを通じ、障害者に向けられる人々の意識を変えようと走り続けた。「小さい頃からいろんな人に出会って一緒に過ごすことが大切」という考えを実践し、持ち前の明るさから活動の輪を広げた。だがSMAの進行のため、44歳で亡くなった。

 障害者の自立を障害当事者が支援するNPO法人「自立生活センター(CIL)東大和」(東京都東大和市)で、01年の発足から海老原さんとともに活動し、海老原さんの死後に理事長職を引き継いだ田渕規子さん(61)は、今でも折に触れ「宏美だったらなんて言うかな」と考える。

 田渕さんは6歳の時に原因不明の病で歩けなくなり、車いすでの生活に。高校まで特別支援学校の院内学級で学んだ。多感な時期を脳性まひなど、障害のより重い同級生と過ごした経験を海老原さんに「レアですよ。武器にしてください」と言われ、「自分のルーツだ」と思えるようになった。

 海老原さんと同様に人工呼吸器を付け、24時間介助を受けて暮らす岡部宏生さん(66)は行政への要望活動などで海老原さんと顔を合わせ、「難病患者であるという共通の境遇」について話しながら、交流を深めた。

 岡部さんは48歳で筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症。ALSは全身の筋肉が次第に衰え、呼吸もできなくなる難病だ。文字盤を使って目の動きで介助者に意思表示をする。

 介助者の育成などを目的とし…

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この記事を書いた人
葛谷晋吾
朝日新聞メディアプロダクション・ビジュアル事業部
専門・関心分野
写真、共生社会