第五福竜丸被曝70年 みなかみ町の映画監督坂田さん

柳沼広幸
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 太平洋のマーシャル諸島で米国が行った水爆実験で、マグロ漁船「第五福竜丸」など多くの漁船が「死の灰」と呼ばれる放射性降下物を浴びて乗組員らが被曝(ひばく)した事件から3月1日で70年。群馬県みなかみ町在住のドキュメンタリー映画監督坂田雅子さん(76)は被害者や島民らを追った映画を発表している。「過去のことではない。核による被害は今も続いている」

 「彼らは放射能をヤシの木々やたわわに実ったパンの木、きらめくサンゴ礁の魚たちに浴びせかけたのです」。マーシャル人の女性詩人が怒りを込めて核実験を非難した。東京都江東区夢の島の「第五福竜丸展示館」の映像資料。坂田さんが撮った短編「故郷を追われて」の一部が見られる。

 米国とソ連(現ロシア)の核兵器開発競争で、米国は1946~58年にマーシャル諸島で67回の核実験をした。54年3月1日のビキニ環礁の水爆実験で、周辺海域で操業していた静岡県焼津市の第五福竜丸は乗組員23人が被曝し、半年後に無線長の久保山愛吉さんが亡くなった。太平洋は広範囲に汚染され、日本の多くの漁船が放射能に汚染されたマグロの廃棄を余儀なくされた。「ビキニ事件」は原水爆禁止運動を盛んにするきっかけになった。

 坂田さんは、2011年3月の東日本大震災東京電力福島第一原発福島県大熊町、双葉町)が世界最悪級の過酷事故を起こし、大勢の住民が避難を強いられたことに衝撃を受けた。

 福島の避難者と共に大熊町や浪江町などに通ったが「事故の根源、問題の本質」はみえてこなかった。一歩引いて「俯瞰(ふかん)的、歴史的に捉えよう」とビキニ事件を思い出した。「ビキニを知れば60年後の福島が分かる」と考えた。

 第五福竜丸の元乗組員大石又七さん(21年死去)らに話を聞いた。マーシャル諸島の住民はどうか。12年3月から島民の避難先やビキニ環礁などを訪れ、島民らに話を聞いた。ソ連の核実験地、フランス核燃料再処理工場など世界の放射能汚染地域も訪ね、映画「わたしの、終わらない旅」(78分)を14年に発表した。

 マーシャル諸島は核実験の放射能汚染に加えて、地球温暖化による海面上昇で水没の危機に瀕(ひん)している。

 「核実験をしたのは大国。被害を被ったのは私たち。気候変動も、汚い煙を大気中に吐きだしているのは大国。被害を被るのは私たち小国だ」。映画でマーシャル諸島の元外相トニー・デブルームさんは憤る。

 過去の話ではない。福島原発は昨年から処理水を太平洋に放出している。放射性物質を取り除く処理をしてもトリチウムは除去できない。マーシャル諸島など18の国と地域の「太平洋諸島フォーラム」は、海洋放出に懸念を表明している。

 「核実験や原発事故による放射能汚染は何世代、何年にもわたって影響し、住民の健康をむしばむ。海に流すなんてとんでもない。福島の汚染水は固形化して陸上保管など別の方法で対応すべきだ」と坂田さん。

 核兵器は大国が保有し、原発の電気は都市住民が享受する。汚染の被害は島国や地方の過疎地に押しつけられ、今もふるさとに帰れない人たちがいる。「抑圧された人たちが、どこまでも抑圧されている」。坂田さんは「声なき声。弱い人たちの小さな声を聞いていきたい」という。

 映画の問い合わせは(masakosakata@gmail.comメールする)。(柳沼広幸)

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