「お代はいい」と地震で壊れたメガネを直す 最初の客はあの人だった

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加治隼人

 復興が進まない被災地では、あちこちでツバキの赤い花がそっと咲いている。朝市でにぎわった輪島市中心部は多くの建物が焼け落ち、崩れたままだ。そんな中、一人のメガネ職人が、きょうも店を開く。

真っ赤なツバキと一人の職人

 朝市通り近くの馬場崎(ばんばざき)商店街に並ぶ二十数軒のうち、明かりがつくのは2、3店舗だ。メガネ・時計店「キロク」を営む木下伸一さん(65)が商売を再開させたのは1月7日のことだった。

 SNSでこう呼びかけた。

 「メガネの修理したい方 輪島市河井町より3キロ程度の避難場所なら訪問できます」

 元日に起きた能登半島地震で、ガラス張りの店の入り口は粉々に砕け、割れたショーウィンドーと商品が床を埋め尽くした。壁には亀裂が走っていた。

 木下さんも、地震でメガネを壊した。「同じように困っている人がいるのでは」と考えた。

 人通りのない商店街で店を開け続けているのには、もう一つ理由がある。

地震から2日目のパン

 地震から2日目、支援物資はなかなか届かなかった。家族3人で身を寄せた避難先の中学校には、どんどん人が押し寄せたが、食べ物は自衛隊からもらった菓子くらいしかなかった。

 同級生から「近くのパン屋が無料でパンを提供している」と教えてもらい、車を走らせた。

 店の扉を開けると、店主の女性は1袋8個入りのパンの詰め合わせを配っていた。

 「知り合いの家族にも渡したい」と無理を言って二つもらった。

 「お金はいりません」と断る…

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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2024年2月27日15時7分 投稿
    【視点】

    経済的な利益を超えた、人と人のつながりや交流に社会的な意義や価値があるという立場で活動したり、特に意識していなくても結果的に人と人のつながりや交流につながる活動をしたり。深刻な状況でも助け合ったり、励まし合ったりして人と人のつながりや交流を

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