保育士は「高度な専門職」、社会に認識あるか 汐見稔幸さんの問い
保育施設などで昨年、不適切な保育が相次いで発覚し、「保育の質」が問われています。
社会の中で保育士や保育園はどうあるべきなのか。
教育学者の汐見稔幸・東京大学名誉教授に聞きました。
――近年の保育施策の変遷をどのように捉えていますか。
女性の社会進出に伴い働く女性が増え、1980年ごろまでは急速に保育園が増設されました。
80年代になると、公的に社会制度を整えようという機運が薄れ、公立の保育園の整備も進まない時代になります。
ところが90年代にバブルがはじけ、賃金の安い女性を労働市場に出そうと、国は再び保育園を増やす方針に転換。要件を緩和し、企業に参入させるなどして、受け皿を増やしてきました。
労働政策を支えるため、社会に合わせて保育園が整備されてきたこと、それ自体は必然的で、間違っているとは言いません。
でも、それによって質が下がっていることに対して、抜本的な対策を取ろうとしていないことが問題です。
先進国といわれる国々の中で、以前から日本は保育士1人がみる子どもの数を定めた「配置基準」が最も低い。保育士1人で多くの子どもたちをみなければいけません。条件が良くならないと良い保育ができないのは当たり前ですが、保育士養成のあり方も見直す必要があります。
――どのような見直しでしょうか。
厚生労働省が管轄する資格には、医師、看護師、社会福祉士などがあります。
それぞれ「医師法」「保健師助産師看護師法」「社会福祉士及び介護福祉士法」が規定されており、立場や職務上の責任などが法律によって規定されています。
一方、保育士は児童福祉法の条文で立場が規定されているだけで、独立した法律がありません。
働きながらどんな研修が必要かも、統一した基準がない。
保育士の資格がなくても、園長や施設長になれてしまいます。
保育士は「高度な専門職」であるという認識が、多くの政治家や保護者、保育士自身にも欠けているのではないでしょうか。
昨年、相次いで発覚した不適切な保育といった様々な問題の根源は、ここにあると思っています。
――高度な専門性とは?
この子は、こんなことが好き…