少女の死に涙した小澤征爾さん 幸福と孤独を抱えたパイオニアの素顔
世界的指揮者の小澤征爾さんが88歳で死去しました。長く取材してきた吉田純子編集委員が、その素顔を振り返ります。
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小澤さんはとても涙もろいマエストロだった。小澤さんの涙をいったい何度見たことだろう。うれしいときも、悲しいときも、悔しいときも、感情をあらわす言葉をまだ持たぬ子どもさながらに、すぐに大きな目いっぱいに涙をためた。
その感情の振れ幅の大きさと深さこそが、小澤さんの音楽の本質とシンプルに連なっていることは言うまでもない。
とりわけ、生涯の盟友だった山本直純について語りはじめると、たちまちのうちに目が充血した。2002年に山本が亡くなったあとも、必死の形相で涙をこらえながら記者にまくしたてたことがあった。
「きみたちは、ナオズミがどれほど天才だったのか本当にわかってるの? あの『大きいことはいいことだ』って、気球の上から100人くらいの合唱を指揮してるコマーシャル(森永エールチョコレート)、あの大振り、あれはただのラジオ体操じゃないんだ。あの大きな振り幅で、しっかり打点をおさえ、大勢の人を束ねるのって、実はすごいことなんだよ。少なくとも僕にはあんなことできないよ」
あの時の涙は、単なる悲しみではなく、真実の才能が商業主義の世界に消費されてゆく時代への悔しさ、憤りの涙だったように、今となっては感じられてならない。
楽屋を訪ねてきた若い夫婦
2000年の夏、長野県松本市で開かれていたサイトウ・キネン・フェスティバル松本(現セイジ・オザワ松本フェスティバル)で楽屋でインタビューをしていた時にも、思いがけなく小澤さんの涙を見た。
トン、トンと扉がノックされ…
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- 【視点】
The New York Timesでも小澤征爾さんの死去が大きく報道されています。 アジアの音楽家は、西洋音楽において完璧な技術を身につけることはできても、それについて真に深く解釈したり、織り込まれた感情を理解したりすることはできな
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