入手困難、鎌倉「クルミッ子」 脱「頼朝」で売り上げ10倍の快進撃

芳垣文子

 かわいらしいリスがトレードマークの鎌倉のお菓子「クルミッ子」の快進撃が止まらない。開店前から行列ができ、早々に売り切れる店舗もあり、今や入手が難しいスイーツの一つ。5日には鎌倉に新店舗がオープンし、2025年には小田原に新工場を立ち上げるなど、業績拡大を続けている。

 5日、鎌倉市の観光スポット小町通りから少し脇に入った場所に「鎌倉紅谷 小町横路店」がオープンした。平日にもかかわらず大勢の客が詰めかけ、先頭の女性は開店の2時間以上前から並んだという。東北地方から車で前日入りし、車中泊したという女性もいた。

 「クルミッ子」はクルミを詰め込んだキャラメルをバター生地で挟んだ焼き菓子。製造過程で出る切れ端「クルミッ子切り落とし」を扱う店では、店舗によって整理券を配る人気ぶりだ。ネット上では、比較的入手しやすいスポットの情報が飛び交う。

 今年創業70周年を迎える「鎌倉紅谷」(本社・鎌倉市)の主力商品。急成長のきっかけは16年前のブランドリニューアルだった。

 当時は今とは全く違う、源頼朝の姿をデザインした包装紙を使っていた。08年に就任した3代目の有井宏太郎社長(44)がリニューアルに踏み切った。妻で現副社長の敦子さん(45)から「今の包装紙は高級感や鎌倉らしさは伝わるが、もっとお菓子のおいしさや魅力が分かるようなデザインを考えては」と言われたのがきっかけだった。デザイナーとも相談しながら、個包装に使っていたリスのキャラクターを前面に出し、パッケージデザインを一新。商品だけでなく封筒や段ボール、社員の名刺などのロゴも変えた。

 効果は徐々に表れた。11年度には「神奈川県名菓展菓子コンクール」で最優秀賞を受賞。メディアに取り上げられることが多くなった。フェイスブックやX(旧ツイッター)で発信を続けたことも功を奏した。

 ターゲットも「25~47歳の女性」に絞り込んだ。08年に4億円弱だった同社全体の売り上げは、幸浦工場(横浜市金沢区)ができた15年に12億円、横浜ハンマーヘッド(横浜市中区)に「クルミッ子ファクトリー」がオープンした19年に31億円、22年には54億円と右肩上がりに伸びた。

 「危機」もあった。20年にコロナの感染拡大が直撃、製造・販売を一時ストップする事態になった。だがここで、大幅な値引きで在庫のオンライン販売に踏み切り、有井社長が「はじめてのお願い」としてSNSで発信。予想外の反響を呼び、完売した。「職人さんたちが一生懸命に作った商品を廃棄処分にだけはしたくなかった。どうやったらピンチをチャンスに変えられるかを必死に考えていました」と振り返る。20年の売り上げは休業にもかかわらず19年比約99%、21年は同約150%と盛り返した。

 他企業や催事などとのコラボにも力を入れる。宝塚大劇場との「スミレッ子」、「ルーヴル美術館展」との「ルーヴルッ子」のほか、有名チョコレートブランド「ピエール・エルメ・パリ」とのコラボ商品も。いずれも数量限定で話題を呼んだ。

 一方、生産が追いつかず、品薄感が否めないのが現状だ。増産のため、25年夏の稼働をめざして小田原に新工場を立ち上げる。有井社長は「まずは生産を増やし商品を行き渡らせることが最優先。その上でいずれは海外も視野に入れながら進めていきたい」と話している。(芳垣文子)…

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