声優・梶裕貴さん、面白いを大切に しつもん!ドラえもん5000回

聞き手・黒田健朗
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 2010年1月から毎朝、朝日新聞の1面でクイズを出してきた「しつもん!ドラえもん」が20日で5000回を迎えました。節目を記念し、同じ誕生日のドラえもんを友だちのように感じてきたという声優の梶裕貴さんにインタビュー。「さようなら、ドラえもん」などの作品から学んだこと、自身がアニメ版に出演した時の思い、もしも「しつもん!ドラえもん」に「声優になるために大切なことは何かな」という質問があったら……。たっぷり語ってもらいました。

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 ――梶さんご自身の「ドラえもん」との出会いは

 私の誕生日は、ドラえもんと同じ9月3日。とても親近感があります。子どもの頃から、無意識的にアニメやグッズに触れていましたし、まるで身近にいる友だちのような存在ですね。

 小学校に入ると、本格的に藤子・F・不二雄先生の描かれた原作漫画を読むようになりました。お気に入りのお話を繰り返し読んだり、初めてのお話に出会って新鮮に感じたり……。あと、「しつもん!ドラえもん」にも通じるところかと思うのですが、私は「ドラえもん」のキャラクターが登場する、歴史の参考書を使って勉強をしていたことがあって。ドラえもんたちがタイムマシンで時代をさかのぼり、当時の様子を見せてくれるんです。その時の、のび太たちのリアクションは自分の感覚に近いわけで、共感しながら、自然と頭に入ってくる感じがありました。とっつきにくかった勉強にエンタメ要素を感じて、非常に楽しめました。

 ――幼少期に「ドラえもん」原作本編で特に繰り返し読んだお話はありますか

 王道ではありますが、印象的なのは「さようなら、ドラえもん」(てんとう虫コミックス6巻)。未来に戻ることになったドラえもんが安心して現代を去ることができるようにと、のび太がジャイアンに立ち向かう、という名作です。

 子どもながらにシリアスなお話だと感じていました。当時の自分は、漫画やアニメに対して、基本的には笑ったり、びっくりしたりする陽(よう)のエンタメを求めて触れていたと思うんですが、そのエピソードはとても悲しくて、苦しくて。不思議な感覚を覚えましたね。道徳の授業に近いような印象がありました。

 それまでドラえもんに甘えていたのび太が、相手のために自分がどうしたらいいかを考える。想像して、実際に行動を起こすんです。それって、すごく大事なことで。もちろん当時は、のび太の寂しさに共感していましたが…親として育児をするようになった今読み返すと、ドラえもん側の気持ちも理解でき、のび太の成長が心に染みます。

 「ドラえもん」は、成功と失敗の繰り返しで人は成長していくということを、“勉強”という形ではなく、物語を通して、自然と教えてくれるような作品なんだろうなと感じています。

 ――学びが多い作品だということでしょうか

 作中、ひみつどうぐを通じて様々な事件が起こりますよね。私利私欲で使ってしまうとうまくいかなくても、相手のことを思って使うと、みんなハッピーになったりする。モノは使い方一つ、という、ある種の教訓が織り交ぜられているような気がします。ただ、「ドラえもん」はあくまでエンタメ作品であり、決して押し付けがましくないんですよね。人間の本質、つくろわない部分を自然と受け取れるような物語になっていると感じます。

 戦争にまつわるお話も印象的です。のび太の親世代が戦争を経験している、という時代背景(てんとう虫コミックス3巻「白ゆりのような女の子」、5巻「ぞうとおじさん」など)。藤子先生が育った環境も影響しているのだと思いますが、戦争の恐ろしさや重みといったものが所々にちりばめられて、小さい子どもたちも自然と触れる機会が出来上がっている。大人になった今、そう感じるようになりました。

 ――確かに「ラジコン大海戦」(てんとう虫コミックス14巻)の「戦争は金ばかりかかって、むなしいものだなあ」というセリフなどに、はっとさせられます

 戦争って、してはいけないものだということは漠然とわかるけれど、なんで起きてしまっているのか、どうして終わらないのか、そこまで考えが回らなかったりしますよね。取り返しがつかないところまで進んでしまった後に、どうしようもなくむなしいものだった、とやっと理解できるという、やるせない現実に突き当たる。だからこそ、そういったセリフがあるんだと思います。

 僕が出演させていただいた「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021」もタイトルに「戦争」がつく作品。リメイクだからこそ、現代にリンクするような部分も強く感じ、心に刺さるものがありました。時代が変わっても、人間のしていることは変わらないのかな、とまさにむなしい気持ちにもなって。だからこそ、これからの子どもたちにも、時を超えて大切なことを教えてくれる「ドラえもん」に触れてほしい、とあらためて思いました。

 ――今映画版の出演のお話がありましたが、「ドラえもん」のアニメにも出演されていますね

 初めて出演したのは2017年。テレビアニメのスペシャルのエピソードで、ドラえもんを「兄貴」と慕うタヌキの役でした(笑)。国民的アニメーションに出演させていただき、本当に光栄でした。たくさんの子どもたちが見ている作品ですし、生半可なお芝居はできないな、とすごく緊張しましたね。

 映画の「宇宙小戦争」への出演も感慨深かったです。「映画ドラえもん」にはいつか出演したい、というのが声優みんなのあこがれですから。「宇宙小戦争」のオリジナル版が公開された1985年は、ちょうど私の生まれた年で。そんなご縁のある作品がリメイクされて、しかも声優として出演させていただけるなんて、本当に夢のような出来事でした。

 担当したロコロコというキャラクターは、85年のオリジナル版では、大先輩の三ツ矢雄二さんが演じられています。当時の作品ファンの方もたくさんいらっしゃいますし、私自身も大好きなので、とにかくリスペクトをもって向き合おう、と。同時に、自分にしかできないロコロコってどんな表現かな、と試行錯誤しながら収録に臨みました。

 ――原作本編も「しつもん!ドラえもん」も親子で楽しんでいる読者が多いと思います。ご自身も今育児に取り組まれていますが、お子さんにドラえもんのこんなところを楽しんでほしい、学びにつなげてほしい、という点は

 思うがままというか…あまり親、大人側からどうこうというよりも、自分がそうであったように、その時期に感じるものを素直に受け取ってくれたらいいのかな、と。子どもの頃は、純粋に漫画作品、エンタメとして「面白いな」「ドラえもんかっこいいな、可愛いな」ということでいいと思うんですよね。時が経って、次第に見え方が変わってくる、という経験自体が素敵だと思います。だからこそ、触れ方というよりも、触れられる環境を大人は用意してあげるべきだろうな、と。

 ――声優に憧れる子どもたちもたくさんいます。もしも「しつもん!ドラえもん」声優編があり、「声優になるために大切なことは何かな」という質問があったら、梶さんはどう答えますか

 「声優になるために」へのストレートな答えではないかもしれませんが、結局演じることって、相手の気持ちを理解することだと思うんですよね。この人物はこういう風に考えているんだな、という気持ちが分からないと、コミュニケーションが取れない。想像力が、お芝居の本質かと。

 あとは、何事にも興味を持って触れてみること、と答えるでしょうか。

 私自身、子ども時代にはいろんな夢を追っていました。サッカー選手になるんだと思ったら、しばらくボールを蹴ってばかりの生活がスタートしたり、漫画家になりたいと思ったら、四六時中お絵かきをしたりしているような子どもで。いつかノーベル賞を取りたい、オリンピックで金メダルを取りたい。はたまた漫画、アニメから影響を受けて、侍になりたい、名探偵になりたい、などなど……。常に、たくさんの夢であふれていました。それぞれ本気な気持ちにうそはありせんでしたし。けれど同時に、ひとつに絞れていないことが良くないことなのかな、とどこかコンプレックスに感じている部分もあって。

 そんななか、中学生の頃に出会った、声優の大先輩の「声優は、何でも全力で頑張ったことが、全て自分の力になる職業だよ」というお言葉に衝撃を受けたんです。色んなことに興味があって、全てを本気で頑張りたい自分にとって、なんてぴったりな職業なんだろうと。そこからは一度も夢が変わらず、声優を志すようになりました。

 少しでも興味があることだったら、まず想像してみる。そして、やれるかもと思ったら、その先に挑戦してみる。「楽しい」「苦手かも」「こういう風にやるとうまくできるんだ」「できないとこういう気持ちになるんだ」――。実際にやってみてわかる経験や気持ちは、必ずお芝居に生かせるはずです。たとえネガティブな感情であっても、役を演じる声優という職業にとっては、決して無駄になりません。

 ――いつかあるかもしれない「しつもん!ドラえもん」声優編のヒントに、声優界の豆知識などがもしあれば教えてください

 コロナ禍を経て少し変化してきている部分もあるのですが、アニメ収録では、その話に登場するキャラクターの声優は、主役であろうと脇役であろうと、全員が同じスタジオに集まり、一緒に録(と)るというのが業界の基本。1話30分の作品であれば、早いもので三時間、長くて五時間ぐらいかけて録ります。

 ひとつのブースに、マイクは大体3~4本用意されています。特にスポーツものなど、登場人物の多い作品では、選手役のキャスト、観客役のキャストなどが、入れ替(か)わり立ち替わりマイク前に移動して、しゃべります。そのため、「○○役がこのマイクに次入るから、自分はこう移動すれば迷惑がかからないな」「入った後すぐ体を引かないといけないな」というような「マイクワーク」が重要になってきます。ぶつかってしまっては収録がストップしてしまいますし、無駄な動きがあればノイズがたって、余計なNGを生み出してしまいますからね。全員がこれでもかと集中してアフレコに臨んでいます。自分がどう動けばその現場がスムーズに回るかを想像し、先読みする。みんなで作っている、という感覚が強い仕事場ですね。

 ――「ガヤ」(背景の雑踏などの音)があるときは、ベテランも若手もみなさん参加されるそうですね

 新人にとっては勉強の場所でありつつ、こういう役もできるんですよ、というアピールの場でもあるかと。ガヤって、じつはとても難しいんです。明確なセリフが用意されていないので、そのシーンをちゃんと理解していないと、ふさわしい言葉が出てこないんですよね。朝なのか夜なのか、一人なのか群衆の中なのか、狭い場所なのか広い場所なのか……。ひとつの物事があった時に、それを笑い飛ばす人もいれば、悲しむ人もいる。何が求められるかはその状況状況で違うので、そこをちゃんとくみ取れていないとダメなんです。

 ――ありがとうございます。声優編が実現したら参考にさせていただきます。さて、この「しつもん!ドラえもん」が連載5000回を迎えました

 おめでとうございます! 「しつもん!ドラえもん」は、私にとってのかつての学習本のように、毎日楽しみながら、抵抗感なく学ぶことができるコーナーだと思います。子どもたちが新聞に触れるよい機会にもなるかもしれませんね。最初から「学ぼう」と思わなくてもいい。遊びの延長から、「面白い!」と感じたその気持ちを大切にしてほしい。そんな風に興味や関心の入り口になってくれたら、素敵ですよね。(聞き手・黒田健朗)

      ◇

 かじ・ゆうき 1985年生まれ。代表作に「進撃の巨人」(エレン・イェーガー)、「七つの大罪」(メリオダス)など。「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021」ではロコロコ役。

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